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第二部 ありがとう、おめでとう よろしくね
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そのままゆっくりと狭いソファーに押し倒されて、そのキスを再現するかのように、和哉は静かに顔を寄せ、柚希は和哉を見上げる格好になった。
「兄さんはβのままでいたかったのに、僕のせいで。ごめんね?」
ごめんね、の一言には後悔は滲まないが、和哉の目にはまたあの時折見せた憂いが滲んだ。
「カズ……」
もしも二十歳そこそこの血気盛んな柚希が、発情期が来た直後にこんな告白を和哉にされたら、柚希はただただ頭に血が登って感情だけで周囲に当たり散らし、そのまま逆上して和哉を遠ざけたかもしれない。
「あの時すぐに番になるとかならないとか、揉めなくてよかった……。発情したばかりの頃から、ついこないだまで。俺は迷ってばかりで昔の自分に戻りたいってそればかり考えていた。そのせいで沢山愛情を貰っていることにも気がつけなくて……。沢山人を傷つけた。すまなかったって反省してる」
「柚希」
「でも今はさ、迷いなく幸せだっていえるよ? 」
和哉を慰めるように柚希の方から身を起こして和哉の唇に自らの唇を押し当てた。
これから実家に行かねばならないというのに、押し当てられるだけですまぬ口づけに柚希も繋がれていない方の手を首に回して熱心に応える。
和哉はそのまま柚希のシャツの裾から徐々に温まりつつもまだ少し冷たい掌を滑り込ませて、温かな腹から胸、柔い肌を味わうように滑らせ、胸元にまでたどり着いた。
「はぁ、はぁ」
音を立てて唇を離した柚希は潤み誘うような目つきで弟を見上げると、弾む息を落ち着けようと小さな色めいた吐息を繰り返し漏らす。
柚希は乱れた衣服を直そうともせず、妖艶な顔のまま一度ソファーの肘掛にずるずると身を起こして和哉に腕を投げるようにして抱き着くと、和哉は昨晩のように柚希の脚をひとまとめに抱えて横抱きに膝に載せる。
腕の中にいる柚希は上目遣いに弟の大きな瞳に流し目をくれて、少し悪戯っぽく微笑んだ。
「それとさ。カズ、これだけは言っておくけどさ、お前勘違いしてない?」
「……なにを?」
「俺がΩなのは先天的なものらしいから、もう気にすんな」
「……僕が柚希がβに戻りたがっているっていったから? そんなことをいうの?」
柚希がβの頃を懐かしむたびに和哉の顔綺麗な眉目が翳ることに互いに気がついていて、気安めにそう言っているのだと思われたようだ。
柚希は緩く首を振りながら、するりと慈しむように両手で弟の頬を撫ぜる。
「お前の言ってる学説がなにかは分からないけど、バース性の研究は今も続けられていて、分からないことも新しい発見も毎年ぐらい刷新されていく分野だろ? 俺だって何度か主治医の先生に確認したんだ。βに戻ることもあるのかって聞いたら、君はもともとΩだよっていわれた。確かにお前や敦哉さんのαのフェロモンに触れたことが、ヒートの発現の契機にはなったかもしれないけど、俺はβっぽい期間が長かったΩってことだそうだ。それでも今の研究だと15~25ぐらいまでにヒートが来ればまあ、ぎりぎり正常な範囲らしいって。調べたこともないから知らなかったよ……」
「……そうなんだね」
「でもさ、俺背も小さい方じゃないし、バスケ部でガンガン攻め倒してたし、見た目だって男だし」
「とても綺麗だけどね? 存在感がバスケ部の中でも際立ってたよ」
「そんなの弟の欲目だって」
けらけら可愛い顔で笑うが、兄の自分の魅力に無頓着なところには何度も煮え湯を飲まされてきた和哉は強く否定した。
「兄さんはβのままでいたかったのに、僕のせいで。ごめんね?」
ごめんね、の一言には後悔は滲まないが、和哉の目にはまたあの時折見せた憂いが滲んだ。
「カズ……」
もしも二十歳そこそこの血気盛んな柚希が、発情期が来た直後にこんな告白を和哉にされたら、柚希はただただ頭に血が登って感情だけで周囲に当たり散らし、そのまま逆上して和哉を遠ざけたかもしれない。
「あの時すぐに番になるとかならないとか、揉めなくてよかった……。発情したばかりの頃から、ついこないだまで。俺は迷ってばかりで昔の自分に戻りたいってそればかり考えていた。そのせいで沢山愛情を貰っていることにも気がつけなくて……。沢山人を傷つけた。すまなかったって反省してる」
「柚希」
「でも今はさ、迷いなく幸せだっていえるよ? 」
和哉を慰めるように柚希の方から身を起こして和哉の唇に自らの唇を押し当てた。
これから実家に行かねばならないというのに、押し当てられるだけですまぬ口づけに柚希も繋がれていない方の手を首に回して熱心に応える。
和哉はそのまま柚希のシャツの裾から徐々に温まりつつもまだ少し冷たい掌を滑り込ませて、温かな腹から胸、柔い肌を味わうように滑らせ、胸元にまでたどり着いた。
「はぁ、はぁ」
音を立てて唇を離した柚希は潤み誘うような目つきで弟を見上げると、弾む息を落ち着けようと小さな色めいた吐息を繰り返し漏らす。
柚希は乱れた衣服を直そうともせず、妖艶な顔のまま一度ソファーの肘掛にずるずると身を起こして和哉に腕を投げるようにして抱き着くと、和哉は昨晩のように柚希の脚をひとまとめに抱えて横抱きに膝に載せる。
腕の中にいる柚希は上目遣いに弟の大きな瞳に流し目をくれて、少し悪戯っぽく微笑んだ。
「それとさ。カズ、これだけは言っておくけどさ、お前勘違いしてない?」
「……なにを?」
「俺がΩなのは先天的なものらしいから、もう気にすんな」
「……僕が柚希がβに戻りたがっているっていったから? そんなことをいうの?」
柚希がβの頃を懐かしむたびに和哉の顔綺麗な眉目が翳ることに互いに気がついていて、気安めにそう言っているのだと思われたようだ。
柚希は緩く首を振りながら、するりと慈しむように両手で弟の頬を撫ぜる。
「お前の言ってる学説がなにかは分からないけど、バース性の研究は今も続けられていて、分からないことも新しい発見も毎年ぐらい刷新されていく分野だろ? 俺だって何度か主治医の先生に確認したんだ。βに戻ることもあるのかって聞いたら、君はもともとΩだよっていわれた。確かにお前や敦哉さんのαのフェロモンに触れたことが、ヒートの発現の契機にはなったかもしれないけど、俺はβっぽい期間が長かったΩってことだそうだ。それでも今の研究だと15~25ぐらいまでにヒートが来ればまあ、ぎりぎり正常な範囲らしいって。調べたこともないから知らなかったよ……」
「……そうなんだね」
「でもさ、俺背も小さい方じゃないし、バスケ部でガンガン攻め倒してたし、見た目だって男だし」
「とても綺麗だけどね? 存在感がバスケ部の中でも際立ってたよ」
「そんなの弟の欲目だって」
けらけら可愛い顔で笑うが、兄の自分の魅力に無頓着なところには何度も煮え湯を飲まされてきた和哉は強く否定した。
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