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第二部 ありがとう、おめでとう よろしくね
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和哉にしては珍しく慎重でない動きを見せて珈琲の載ったテーブルを膝でがんっと押しながら柚希を抱きよせると、互いにまだ冬の外気の冷たさをまとったひやっとした頬を近づけあう。
一度口づけを交わしてから悪戯っぽい目をして柚希が和哉の唇を再び食んで呟いた。
「それで、こっちの二つの説明は?」
「ぬいぐるみは初めてみんなで過ごしたクリスマスの時、兄さんに渡せなかったプレゼント。捨てるのも可哀想で持ってた」
「どうして渡してくれなかったんだよ? 俺昔から可愛いもの好きだよ?」
「その前に父さんが渡したマフラー撒いて、敦哉さんって顔真っ赤にして兄さんうっとりしてただろ? 悔しくて、こんな子供っぽいしょぼいプレゼント渡す気になれなかった」
「俺、和哉がくれたものならきっとなんだって喜んだよ」
指先でワンコの時を経てもまだふさっとした尻尾を撫ぜる指先に、和哉が指先を絡めて自分の頬にあてる。
「兄さんは小さい僕のこと、王子様扱いしてメロメロだったから、きっとなにしたって喜ぶって知ってたよ? でも僕だって小さくても男だったんだ。一番好きな人には恰好いいって顔されてうっとりされたかった」
「あの頃あんな可愛い顔して甘えてきて、影じゃそんなこと考えてたのか? 生意気な奴だな! それなら俺だって恰好いいって思われたい。綺麗とかかわいいとかじゃなくて」
「もちろん思ってるよ? なんだかんだ言って、兄さんは今日だってちゃんと恰好よかった」
「ちゃんとって。あっちのクロスは?」
高校生になってから部活の傍ら和哉はバイトにも精を出していた。恋人と出かけたりプレゼントでもするためにお小遣いでは足りないのかなと思っていたが、結局三年間和哉にそういう相手を紹介されなかったのが柚希としては少し寂しかった。実際のところ和哉は学生時代も一途に柚希だけを愛していたわけなのでそれは今となっては杞憂だったのだが。
「高一の時、初めてバイトをして、兄さんとお揃いでしようと思ってクリスマスプレゼントに買ったんだ。でも兄さん、直前に女の子と付き合って……、渡せなかった」
クロスに手を伸ばそうと放しかけた右手をぎゅっと掴み阻まれ、その時の気持ちをなぞるような声色に宿る不穏な響きに柚希はたじろぎながら言い募る。
「専門学校の同級生な? あれは告白されて付き合ってたっていうか……。クリスマス前に恋人と別れたから、予約してたクリスマス限定のスィーツ食べにいかないかって誘われて。普段からまあ世話になってた人だったし。まあ仕方なく」
もちろん製菓の専門学校に通っていた柚希としては限定スィーツにがっつり心を持っていかれていたわけで、その彼女とはやはりお友達の域を出なかったが、和哉は悔しくて当時細かい話を聞くことができなかった。今よくよく聞いてみれば、和哉は限定スィーツに負けたようなものだ。
「……仕方なくねぇ? その仕方なくのせいで、僕の高校時代のクリスマスの思い出は散々なのばかりだ……。」
「全部人のせいにするのか? お、お前こそ洗いざらい白状しろよ? 昨日有耶無耶になったけど……。ね、寝てる俺になんかよからぬことをしてたって言ってたよな?」
「よからぬことって? どんなこと??」
「それは、その?」
「兄さんの口から聞きたいなあ?」
「でた、そのパターン! 俺に恥ずかしいことわざと言わせようとするやつ!」
その手は食わないと口を噤むが、聞き出すこともできないから目を凝らすようにして和哉を甘く睨むと和哉が耳元に唇を近づけてきた。
「未分化の性別を持つ相手に、αが性フェロモンを浴びせながら粘膜を接触し続ければ、相手をΩ性に傾けられるって学説があったから」
「……」
「兄さんが早くΩとして目覚めればいいのにって思いながら、夜な夜なキスしてた」
一度口づけを交わしてから悪戯っぽい目をして柚希が和哉の唇を再び食んで呟いた。
「それで、こっちの二つの説明は?」
「ぬいぐるみは初めてみんなで過ごしたクリスマスの時、兄さんに渡せなかったプレゼント。捨てるのも可哀想で持ってた」
「どうして渡してくれなかったんだよ? 俺昔から可愛いもの好きだよ?」
「その前に父さんが渡したマフラー撒いて、敦哉さんって顔真っ赤にして兄さんうっとりしてただろ? 悔しくて、こんな子供っぽいしょぼいプレゼント渡す気になれなかった」
「俺、和哉がくれたものならきっとなんだって喜んだよ」
指先でワンコの時を経てもまだふさっとした尻尾を撫ぜる指先に、和哉が指先を絡めて自分の頬にあてる。
「兄さんは小さい僕のこと、王子様扱いしてメロメロだったから、きっとなにしたって喜ぶって知ってたよ? でも僕だって小さくても男だったんだ。一番好きな人には恰好いいって顔されてうっとりされたかった」
「あの頃あんな可愛い顔して甘えてきて、影じゃそんなこと考えてたのか? 生意気な奴だな! それなら俺だって恰好いいって思われたい。綺麗とかかわいいとかじゃなくて」
「もちろん思ってるよ? なんだかんだ言って、兄さんは今日だってちゃんと恰好よかった」
「ちゃんとって。あっちのクロスは?」
高校生になってから部活の傍ら和哉はバイトにも精を出していた。恋人と出かけたりプレゼントでもするためにお小遣いでは足りないのかなと思っていたが、結局三年間和哉にそういう相手を紹介されなかったのが柚希としては少し寂しかった。実際のところ和哉は学生時代も一途に柚希だけを愛していたわけなのでそれは今となっては杞憂だったのだが。
「高一の時、初めてバイトをして、兄さんとお揃いでしようと思ってクリスマスプレゼントに買ったんだ。でも兄さん、直前に女の子と付き合って……、渡せなかった」
クロスに手を伸ばそうと放しかけた右手をぎゅっと掴み阻まれ、その時の気持ちをなぞるような声色に宿る不穏な響きに柚希はたじろぎながら言い募る。
「専門学校の同級生な? あれは告白されて付き合ってたっていうか……。クリスマス前に恋人と別れたから、予約してたクリスマス限定のスィーツ食べにいかないかって誘われて。普段からまあ世話になってた人だったし。まあ仕方なく」
もちろん製菓の専門学校に通っていた柚希としては限定スィーツにがっつり心を持っていかれていたわけで、その彼女とはやはりお友達の域を出なかったが、和哉は悔しくて当時細かい話を聞くことができなかった。今よくよく聞いてみれば、和哉は限定スィーツに負けたようなものだ。
「……仕方なくねぇ? その仕方なくのせいで、僕の高校時代のクリスマスの思い出は散々なのばかりだ……。」
「全部人のせいにするのか? お、お前こそ洗いざらい白状しろよ? 昨日有耶無耶になったけど……。ね、寝てる俺になんかよからぬことをしてたって言ってたよな?」
「よからぬことって? どんなこと??」
「それは、その?」
「兄さんの口から聞きたいなあ?」
「でた、そのパターン! 俺に恥ずかしいことわざと言わせようとするやつ!」
その手は食わないと口を噤むが、聞き出すこともできないから目を凝らすようにして和哉を甘く睨むと和哉が耳元に唇を近づけてきた。
「未分化の性別を持つ相手に、αが性フェロモンを浴びせながら粘膜を接触し続ければ、相手をΩ性に傾けられるって学説があったから」
「……」
「兄さんが早くΩとして目覚めればいいのにって思いながら、夜な夜なキスしてた」
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