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第二部 ありがとう、おめでとう よろしくね

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 和哉は仔犬を柚希の掌から取り上げると、今度は平たい紙の箱。青いリボンがかけられていて、一度ほどけたのかちょっと曲がって結びなおされている形跡がある。

 解いてぱかっと開けてみると、中から若い男性が首から下げて居そうな銀製の細身のクロス型のペンダントが出てきた。

「……今見るとちょっと、シンプル過ぎだな」
「ペンダント?? これ高校生の頃、和哉がしてたやつと似てない?」
「……。はい、次。これで最後」

 最期の贈り物は和哉が手に持って柚希の掌に直々に乗せられた。
 その箱の大きさ形には既視感があり、しかし想像のそれよりはずっと軽い。柚希は何となく中身を想像しながら再び勢いよくぱかっと箱を空けた。
 
 深紅の天鵞絨の布に包まれたそれをゆっくりと指先で開いていく。

「すごい……これ、綺麗だ」

 布を取り払うと現れたのは、金属と飴色の木が組み合わされたフレームとオレンジに近い赤い天然石のはめ込まれた文字盤と金色の針。デザインがまるでファンタジーの世界の住人の持つ道具のように凝っている。
  それはそれはとても美しい、柚希がいかにも好みそうなロマンあふれる、木製の腕時計だった。
 
「……はい、僕も。サプライズ被っててかつ、先越されました。でも、いいこともある」

 驚いて顔を上げた柚希の頭を優しく引き寄せて、珈琲が香る唇を押し当てる。顔を離すと今度は時計を持ち上げていた柚希のほっそりと白い手を口元に引き寄せて、幼い頃にそうしたように手の甲に口づけながら熱っぽい眼差しをしっかりと柚希に惜しみなく注いで、こう囁いた。

「柚希さん、これから僕とずっと同じ時を刻んでください。結婚しようね?」
 
 サプライズの手紙も、紙皿も。
 もちろんよい、どれも最高かもしれない。

「……ああ。しよ?」

 でも直接面と向かって言われたら、声は上擦るし、胸の熱い高鳴りといつも本当に端正だなと思う和哉の顔がまた一段と輝いて見えるし、言葉に詰まって何度も頷きすぎて震える自分の手元をみると、絶えず震える手元を握ってくれる和哉の成長した大きな掌にまたじんっときて。

「面と向かって言われるの、やっぱすごい。胸にずぎゅーんって、なんか矢でも刺さったみたいに、きた」
「そうか。じゃあ、僕はやっと兄さんをしとめられたのかな?」

 柚希はこくこくと素直に頷いて、眦を下げてふわりと柔らかく舞う優美な白い花びらのような、あの日和哉が一目で虜になった笑顔を見せた。
 
「和哉ありがとう」
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