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第二部 ありがとう、おめでとう よろしくね

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 ツリーは主の留守中も休まずに、まだちっかちっかと赤や黄色の明かりを灯している。今日実家に帰るからその時返してしまえば?と明日からの生活を考えて情緒のない柚希は今朝そう弟に促した。しかしクリスマス本番の今日まで飾っておきたいと和哉が明日には片づけを約束してくれた。

「コーヒー淹れるね」

 エアコンの動作音、電気ケトルのお湯の湧く音。

 柚希がすぐに出かけるからとソファーにコートを置いたのと対照的に、和哉はきちんとコートをハンガーにかけて玄関わきのフックに丁寧にかけていた。
 靴もそう。せっかちな柚希が早く部屋を温めようと後ろに蹴り上げるように脱いだ靴を、和哉が自分の分と共にきちんとそろえて室内にゆったりと入ってきた。

(俺たちって……。子供の頃から一緒にいた兄弟だし、番にはなったけど、性格も体格もまるで違う)

 頸に永遠に消えない噛み痕がついて、和哉とは深い絆で結ばれたけれど、よくよく考えてみたら二人は違う人格を持つただの男だ。
 
(和哉のこと。なんでも分かったつもりでいたけど、知らないことも沢山ある。和哉が社会人になったらきっとこれからもどんどん更新されていくんだろうな。だからこれからは番として対等に沢山ぶつかり合って、それでその倍抱きしめあって。ずっと愛しあっていきたいなあ)

 和哉が大きな手に湯気の立つカップを二つもって、柚希の腰かけたソファーに運んできてくれた。

「はい。兄さん」

 二人で暮らす時に母が持たせてくれたマグカップは、柚希のカップが黄色の釉薬が蕩けた満月のような色で、同じ柄なのに和哉のそれは雫を載せた若草のような瑞々しい翡翠色。
 二人の象徴のようなそれに口をつけて、淹れたての珈琲の香りを楽しんでから猫舌の柚希は一口だけ啜るとテーブルの上に慎重に置いて自分宛の贈り物の数々に目を向けた。

「これ、どれから開けていいの? なんか懐かしい柄の包み紙があるね?」

 小さなサンタがソリにのってトナカイと夜空を飛び回る、そんな線画が描かれた赤い包装紙はちょっとよれよれだが、しっかりセロハンテープで封がなされている。

「……中身が無事だといいんだけど」
「??」

 セロハンテープがもうべたべたになってしまってそこからはがせなかったから、和哉に目配せして柚希は同意をとるとピリピリと上を破り取ると中から黒々した目がくりっとした、小さな黄色い仔犬のマスコットサイズのぬいぐるみが出てきた。どう見ても成人男性へのプレゼントにはそぐわない雰囲気だが、掌に載せると丸まっこいフォルムでころっと転がり、とても愛らしかった。

「可愛いな? どうしたのこれ?」
「説明は、まとめてするから次」

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