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第二部 ありがとう、おめでとう よろしくね
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ぶんぶんと首を振るが、明らかに目じりを潤ませた兄に、和哉はおろおろしながら店長と顔を見合わせた。
「お前、そんな仕事もするの? 知らなかった……」
「それだけが仕事じゃないけど、兄さんが仕事もしている、この街もこのお店も気に入ってるんだ。だから折角、沿線を開発している会社に勤めるから、昔からお世話になっている人たちに為になることしたいでしょ?」
(和哉は和哉で、俺が大事にしているこの店や商店街のことを想って……。色々考えていてくれたんだ)
黙り込み、弟の成長に胸が詰まって涙を浮かべた柚希と傍に行きたそうな湯和哉の姿に、店長が気を利かせて部屋を後にしていった。
(晶も沢山俺とのこれからのことを考えてくれていた。それに比べたら和哉はのことはまだ学生だから色々しょうがない、って心の中でどこか軽く見てたところもあったかもしれない。それにどうしてもいつまでたっても和哉は可愛い弟だって思う気持ちも消えなくて……。だけど違った。和哉は和哉で、俺の知らないところで沢山成長してる。俺よりずっと俺のことを分かってて……。俺たちのこの先の未来を考えていてくれた)
ぎゅっと身体の横で握った拳で和哉は勇気を振り絞ると、涙がぽろっと零れたままの顔を上げて和哉にすくっと応接にも使っている小さなテーブルと椅子を指差した。
「カズ、そこ座って」
「え? はい」
突然のことに棒立ちになった弟の暖かな手を引っ張って軽く動く白い席に座らせると、柚希は動き出した。
冷蔵庫に駆け寄って紙皿の上に載せられた小さなドーナツを取り出す。
冷凍品をゆっくり解凍したもので、結露でチョコに水滴がつくことを恐れて居れっぱなしにしていたから多分冷たい。でも我慢してもらう。
シンプルにホワイトチョコレートでコーティングしたドーナツ。
桃色のチョコスプレーと、その上に紅白の梅の花を模した花飾りを置き、おめでたい雰囲気を出してみた。その上にころっと丸い小さなドーナツに黄色い南瓜チョコでコーリングされたものをのっけて、大きさも色合いも柚に似せている。
そのドーナツをもって和哉の前に置き、朝出がけに頑張ってそれだけは入れた珈琲を赤いチェック柄の魔法瓶から注いでとんっと横に並べてみた。
「これ、冬至から新春にかけての新作の試作品。食べて。感想くれ」
柚希はぶっきらぼうにそういうと、着替えのためにそそくさと更衣室へ下がっていった。
(だ、だしたぞ。だしたぞ)
ばくばくと心臓が鳴る。
柚希は制服のエプロンを外して、頭から落髪防止用のネットと帽子を外すと、ふうっと大きく息をついて緊張を和らげようとした。そのまま砂糖で一部コーティングでもされたようにかぴっとするエプロンをゆっくりと外す。
ややあって、急に更衣室のドアが蹴破られそうな勢いでどんどんどんどんっと激しく叩かれた。
「お前、そんな仕事もするの? 知らなかった……」
「それだけが仕事じゃないけど、兄さんが仕事もしている、この街もこのお店も気に入ってるんだ。だから折角、沿線を開発している会社に勤めるから、昔からお世話になっている人たちに為になることしたいでしょ?」
(和哉は和哉で、俺が大事にしているこの店や商店街のことを想って……。色々考えていてくれたんだ)
黙り込み、弟の成長に胸が詰まって涙を浮かべた柚希と傍に行きたそうな湯和哉の姿に、店長が気を利かせて部屋を後にしていった。
(晶も沢山俺とのこれからのことを考えてくれていた。それに比べたら和哉はのことはまだ学生だから色々しょうがない、って心の中でどこか軽く見てたところもあったかもしれない。それにどうしてもいつまでたっても和哉は可愛い弟だって思う気持ちも消えなくて……。だけど違った。和哉は和哉で、俺の知らないところで沢山成長してる。俺よりずっと俺のことを分かってて……。俺たちのこの先の未来を考えていてくれた)
ぎゅっと身体の横で握った拳で和哉は勇気を振り絞ると、涙がぽろっと零れたままの顔を上げて和哉にすくっと応接にも使っている小さなテーブルと椅子を指差した。
「カズ、そこ座って」
「え? はい」
突然のことに棒立ちになった弟の暖かな手を引っ張って軽く動く白い席に座らせると、柚希は動き出した。
冷蔵庫に駆け寄って紙皿の上に載せられた小さなドーナツを取り出す。
冷凍品をゆっくり解凍したもので、結露でチョコに水滴がつくことを恐れて居れっぱなしにしていたから多分冷たい。でも我慢してもらう。
シンプルにホワイトチョコレートでコーティングしたドーナツ。
桃色のチョコスプレーと、その上に紅白の梅の花を模した花飾りを置き、おめでたい雰囲気を出してみた。その上にころっと丸い小さなドーナツに黄色い南瓜チョコでコーリングされたものをのっけて、大きさも色合いも柚に似せている。
そのドーナツをもって和哉の前に置き、朝出がけに頑張ってそれだけは入れた珈琲を赤いチェック柄の魔法瓶から注いでとんっと横に並べてみた。
「これ、冬至から新春にかけての新作の試作品。食べて。感想くれ」
柚希はぶっきらぼうにそういうと、着替えのためにそそくさと更衣室へ下がっていった。
(だ、だしたぞ。だしたぞ)
ばくばくと心臓が鳴る。
柚希は制服のエプロンを外して、頭から落髪防止用のネットと帽子を外すと、ふうっと大きく息をついて緊張を和らげようとした。そのまま砂糖で一部コーティングでもされたようにかぴっとするエプロンをゆっくりと外す。
ややあって、急に更衣室のドアが蹴破られそうな勢いでどんどんどんどんっと激しく叩かれた。
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