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第二部 ありがとう、おめでとう よろしくね
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「痛っ。和哉!!」
多分齧られて血でも滲んでいそうな首を巡らせ和哉を探すと、昨晩かなりぐちゃぐちゃになったはずの布団の方で和哉は色違いのの紺色のパジャマを着こんで、満足げな安らかな笑顔で眠っていた。
多分そこここの片づけをしてそう遠くない時間に眠りについたばかりなのだろう。珍しくぐっすりともいうべき脱力しきった姿で寝ているのが見て取れた。
「くそ、満足そうな顔しやがって」
窓の外、星すら瞬く。仕事の早番の出勤時刻まではまだ間がある。暖房の切れた部屋は極寒ともいえ、布団から顔を出した息が白く見えてもおかしくないほど。枕元にいつも置き去りのリモコンを手で探って部屋を暖めなおすと、柚希はベットから下の布団にごろりんっとわざと転がり落ちた。
「ぐっ、うわっ」
寝こけている時に急に上から兄にダイブされ、和哉が驚き呻いて目を覚ます。
「寒い! 中入れろ」
「え、あ? 兄さん?」
もぞもぞと和哉の布団にもぐりこめば、沢山敷かれたバスタオルのややごわつく感覚に柚希は頬を染めた。
(昨日、大分汚しちゃったのかな……。乾燥機かけないと駄目だろこれ)
多分乾燥機をかけようにも木造アパート内は音がそこそこ響くので昼間にでもやろうと思っていたのだろう。せっかく親から持たされたふかふか布団を汚してしまって流石に罪悪感が漂いつつも、柚希はまだ寝ぼけているのかいまいち反応の悪い弟の身体に大木にくっつくセミの如く張り付いた。
「おい、和哉。昨日はよくもやってくれたな」
「ごめん」
詰りつつもどこか甘い声になってしまうのは、すぐさま長い腕を回して抱き返してくれる和哉の胸の暖かさに心も身体もすぐにとろとろと蕩けてしまうからだろう。
冬のぬくぬくの布団に入っていたら、いろんな怒りやわだかまりなどすぐにショコラに浮かべたマシュマロみたいにふわりと溶けてなくなりそうだ。
今なら昨日言えなかったことをきちんと伝えられそうな気がして、柚希は顔を胸にこすこすと擦り付けてから訥々と伝え始めた。
「……晶のあの時計と手紙のこと。あれが入っているって知ってたら流石に俺も受け取らなかった。晶の家に忘れてきたイヤホンケースと、代わりのイヤホン買ってくれたって言われて渡されたから。すっかりあいつに担がれた。だからすぐ、高価なものだし、きちんと返したいって言おうと思って……。あいつに連絡とろうとした」
「……そうだったんだね」
「とはいえ。なあ。そもそも全部受け取らなければお前に嫌な思いもさせないですんだ。それは事実で、その点はその……。ごめん」
素直にそういって腕の中で頭を下げたら、つむじに向かって和哉が唇を落としてくる優しい感覚が伝わってきて、柚希は胸がいっぱいになった。
「僕こそ、乱暴にしてごめん。……わかったよ。兄さんはきっと優しいから、晶先輩が訪ねてきたら無下にできない。それにきっと……。あの人から言わせたら、僕こそ兄さんを奪った極悪人なんだろうからね」
だからどんなことをされても仕方ない、言外に仄めかして自嘲気味に呟く和哉の身体に、柚希は腕はおろか足まで回してぎゅぎゅっと抱きしめた。
多分齧られて血でも滲んでいそうな首を巡らせ和哉を探すと、昨晩かなりぐちゃぐちゃになったはずの布団の方で和哉は色違いのの紺色のパジャマを着こんで、満足げな安らかな笑顔で眠っていた。
多分そこここの片づけをしてそう遠くない時間に眠りについたばかりなのだろう。珍しくぐっすりともいうべき脱力しきった姿で寝ているのが見て取れた。
「くそ、満足そうな顔しやがって」
窓の外、星すら瞬く。仕事の早番の出勤時刻まではまだ間がある。暖房の切れた部屋は極寒ともいえ、布団から顔を出した息が白く見えてもおかしくないほど。枕元にいつも置き去りのリモコンを手で探って部屋を暖めなおすと、柚希はベットから下の布団にごろりんっとわざと転がり落ちた。
「ぐっ、うわっ」
寝こけている時に急に上から兄にダイブされ、和哉が驚き呻いて目を覚ます。
「寒い! 中入れろ」
「え、あ? 兄さん?」
もぞもぞと和哉の布団にもぐりこめば、沢山敷かれたバスタオルのややごわつく感覚に柚希は頬を染めた。
(昨日、大分汚しちゃったのかな……。乾燥機かけないと駄目だろこれ)
多分乾燥機をかけようにも木造アパート内は音がそこそこ響くので昼間にでもやろうと思っていたのだろう。せっかく親から持たされたふかふか布団を汚してしまって流石に罪悪感が漂いつつも、柚希はまだ寝ぼけているのかいまいち反応の悪い弟の身体に大木にくっつくセミの如く張り付いた。
「おい、和哉。昨日はよくもやってくれたな」
「ごめん」
詰りつつもどこか甘い声になってしまうのは、すぐさま長い腕を回して抱き返してくれる和哉の胸の暖かさに心も身体もすぐにとろとろと蕩けてしまうからだろう。
冬のぬくぬくの布団に入っていたら、いろんな怒りやわだかまりなどすぐにショコラに浮かべたマシュマロみたいにふわりと溶けてなくなりそうだ。
今なら昨日言えなかったことをきちんと伝えられそうな気がして、柚希は顔を胸にこすこすと擦り付けてから訥々と伝え始めた。
「……晶のあの時計と手紙のこと。あれが入っているって知ってたら流石に俺も受け取らなかった。晶の家に忘れてきたイヤホンケースと、代わりのイヤホン買ってくれたって言われて渡されたから。すっかりあいつに担がれた。だからすぐ、高価なものだし、きちんと返したいって言おうと思って……。あいつに連絡とろうとした」
「……そうだったんだね」
「とはいえ。なあ。そもそも全部受け取らなければお前に嫌な思いもさせないですんだ。それは事実で、その点はその……。ごめん」
素直にそういって腕の中で頭を下げたら、つむじに向かって和哉が唇を落としてくる優しい感覚が伝わってきて、柚希は胸がいっぱいになった。
「僕こそ、乱暴にしてごめん。……わかったよ。兄さんはきっと優しいから、晶先輩が訪ねてきたら無下にできない。それにきっと……。あの人から言わせたら、僕こそ兄さんを奪った極悪人なんだろうからね」
だからどんなことをされても仕方ない、言外に仄めかして自嘲気味に呟く和哉の身体に、柚希は腕はおろか足まで回してぎゅぎゅっと抱きしめた。
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