仔犬のキス 狼の口付け ~遅発性オメガは義弟に執心される~

天埜鳩愛

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第二部 ありがとう、おめでとう よろしくね

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  先ほどまでの光り輝く夜は一転、月明かりすら射さぬ暗がりに引き込まれた心地だ。昏い夜の海に寄せる波のように、あとからあとから深い罪悪感が押し寄せて柚希はあっという間にそれに飲み込まれていった。

(俺のせいで、ごめん。和哉)
 
 しかしそう謝罪を口にしたら、今宵のきらきらとした和哉との語らいがシャボン玉のように弾けて跡形もなく消えてしまいそうで……。
 悲しみに苛まれ柚希はその言葉が喉につかえたようにどうしても口にできなかった。
 
 柚希は二十代半ばである今の今まで、他人と深い付き合いをしたことがない。
十代後半から二十歳そこそこの、ごく若い頃は相手も気軽な恋の相手として柚希と付き合ってきたから、気楽な友達から二人で会う友達になって、そのあとまたその他大勢の友達に戻ったような……。そんな児戯に似た交際しかしたことがなかった。
   これまで別れた相手との適切な距離間など考えたこともなかったのだ。
 相手が傍にいなければ生きていかれないと恋焦がれ思い詰める。そんな激しい感情を味わったのは、多分和哉が自分と晶のどちらかをとるのかと迫り、自分をとらなければ柚希の元から永遠に去ると突きつけられた、あの瞬間まで知らなかった。
 
(和哉のことが大切なのに……。どうしてよりによってクリスマスイブ当日なんて意味のある日に、プレゼントを受け取ってしまったんだろう)
 
 しかしあの時、こうなることを知り得ていたとしても、すべての気持ちを曝け出す覚悟で柚希に会いに来てくれた晶を、無下に扱うことができだろうか。

 その疑問に一つの答えを擦り付けるように、和哉が耳元で苦々しく囁く。

「晶先輩のことが、忘れられなかった? 顔見たらヨリを戻したくなった?」
「ちがっ!」
 
 思わず夜が深まった時間帯には不釣り合いなほど大声を上げてしまう。流石にそんな誤解をされるのは嫌だった。
   無下にはできなかったが、それでも勇気を振り絞って、晶にだってはっきりと柚希が選びとった相手は和哉であると告げたばかりだ。

 今度こそ振り返って和哉の顔を見つめて話したいと思ったのに、しがみ付いたその腕は解けることはなく、痛いくらいに柚希の瘦身に食い込んできた。

「カズ、離して」
「……行かせない」

 それでももみ合っている間に、和哉が腕を薙ぎ払った腕が当たり、フローリングの床に硬いもの、多分スマホが落ちる音がした。

(晶の連絡先!)

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