仔犬のキス 狼の口付け ~遅発性オメガは義弟に執心される~

天埜鳩愛

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第二部 ありがとう、おめでとう よろしくね

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 和哉は柚希の細い腰に腕を回して逃げ道を塞ぐようにぐっと自らに押し付けると、デスクライトに照らされた白い掌からはみ出す、見るからに意味深な臙脂色のカードを引き抜いた。

 「あ……」

 あの金色の文字など、一目でその意味を判ぜられるだろうに。
 湯上りの熱気に包まれた身体に抱かれているのに、柚希の背に冷たい汗が伝う。背中越しの和哉の湿った逞しい身体は身じろぎもせず、柚希の頬や肩にぽたぽたと濡れた髪から雫が落ちるがそれを拭うことすらできない。いつもは優しく柚希に触れる角ばった長い指先が、獲物を捕らえた猛禽の鈎づめにように柚希の薄い脇腹に食い込んでくる。

(和哉……!)

 柚希は今にも飛び掛かろうと牙を剥く獣に、退路がないのにうっかり背を向けてしまったかのような、そんな逃げ場のない恐怖に苛まれた。

「……晶先輩から?」
「……」

 たっぷりとした沈黙の後、和哉が柚希の耳朶に唇がわざと触れる程の距離で、押し殺した低い声で囁いてきた。素直な身体は素早く胸の鼓動を全身に伝えて柚希はびくりと震える。
 そのまま唇で食み、敏感な耳を詰るように刺激されたから、柚希は声を漏らし上身をよじりながら、言い逃れを思いつこうにも流石に何も浮かばなかった。どう考えても今日の流れを考えたらそう思われるが妥当だろう。
 
「和哉、これさ……」

 どう経緯を話せばいいのか狼狽え、頭の中がとり散らかったまま、柚希は和哉が今どんな顔をしているのかが気にかかり、その顔を覗きこもうとなんとか身をよじって振り返ろうとした。しかしそれが頑強な腕の檻から逃げ出そうとしていると思われたのか、和哉はくしゃりと手の中でカードを握り潰すと、両腕で柚希の身体を机と我が身の間に囲い込んだ。

「受け取ったんだね?」

 柚希の言い訳を聞きたくないとばかりに、和哉にそう断定されて、事実だけを見たらそうとしか言えずに柚希は唇を噛みしめてうなだれた。

「……ああ」
「どうして……」
「どうしてって……」

 どうしてと問われると、本当にどうしてなのか.......。

(どうかしていたのかもしれない。どんなものであれ、別れた男からの贈り物を受け取るべきではなかった……。そういうことだろ……)

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