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第二部 ありがとう、おめでとう よろしくね

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  思わずそう、口にしてしまうほど驚いてしまったのは、載せられていたカードを取り出したその下に、見るからに高級そうな文字盤が光を反射し煌めく、美しい腕時計が恭しく置かれていたからだ。

 震える指先でカードを開くと、そこに綴られていた金色の文字に柚希はドクンっと一度大きく揺れた後に強く早鐘を打つ心臓と、乱した吐息をなんとか整えようと口元を手で覆う。しかしとてもできそうになかった。
 足をふらつかせ、机に両手をついて、カードを何度も何度も覗き込んで嗚咽を漏らしそうになる。それは語学堪能とまでは言えない柚希でも流石に知り得ている、あの言葉。

『Will you marry me?』

 頭の中に寂しそうな笑顔が何度も何度もサムネイル画像のように頭に浮かび、深い深い後悔を宿していたと知れた台詞が、繰り返し繰り返し柚希の中に木霊した。

『……捨ててくれても構わない」
『もったいぶってクリスマスに渡そうなんてしなければよかったな。どんどん渡せばよかったんだ』
 
(晶っ! お前、どんな気持ちで……、俺にこれを渡しに来てくれたんだ?) 
 
 今の今まで和哉との蜜のように甘美なやり取りを経て、天の雲の上を有頂天でぷらぷらと歩き回っているような夢見心地の気分に浸っていた柚希は一気に酔いが醒めてその場に崩れ落ちそうになった。
 
 どうにもできない、やるせない気持ちに襲われて、まだまとまらない思考で携帯電話を引き寄せた。

(これは……。俺が受け取っちゃいけないものだった。……返さないと。きちんと晶に……。でも、そんなことあいつは望んでいるのか? 会いに行って……。また変な期待を持たせてしまったら? どうしたらいい?)
 
 スマホにまだ残る晶の連絡先を呼び出して、指先は寒さを思い出しただけではない震えに定まらない。
 酔いは醒めたと思っていたが、一日の疲れを身体はまだ覚えていて、思考が上手く定まらないのだ。

「柚希」

 さらにぴしゃりと冷たい水を浴びせかけたのは皮肉にも最も愛おしい男が自分を呼ぶ声だった。
「あ……」

 肩を滑り落ちて毛布が足元にわだかまり、湯上りのまだしっとりと濡れた逞しい腕が柚希を閉じ込めるように胸の前に回って項に舌を這わされる。

(和哉! 和哉にこれを見られたら……)

 どんな誤解をされるか分からない。先ほどの和哉のみせた愛ゆえの激高が怖ろしくて、再び心臓が鼓笛隊の太鼓のように強く規則的に叩かれ柚希を追い詰めていく。
 先ほどまで蕩けそうな表情を見せていた恋人の背が小刻みに震えていることを、和哉が見逃すはずもなく、手の中にくしゃり、と握りかけたカードを、もはや隠すことも和哉を振り返ることもできない。

「柚希? 震えてる……、どうして? それは、なに?」

 
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