仔犬のキス 狼の口付け ~遅発性オメガは義弟に執心される~

天埜鳩愛

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第二部 ありがとう、おめでとう よろしくね

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 (そっか、恋人としての俺はなかなか素っ気なくて酷いやつだな。反省せねば)

「えー。じゃあ見本見せて?」
「いいよ。柚希。僕はいくらでも教えてあげられるよ?」

 くいっと顎を掴まれて目元を少し弛めた甘い表情のまま完全に目線を固定されたから、自分で強請った癖に恥ずかしくとも目を反らせずに柚希は(はわわ、我が弟ながら顔が良い!)と内心慌てふためいた。

(この顔……。和哉がちょっと寂しそうな顔して甘えてこられるこの表情。弱いんだよな。俺、昔から)

「柚希のことはどこもかしこも大好きだけど……。僕が一番好きなのは白くて柔らかいこの手かな」
「手?    普通に男の手じゃないか?   まあ、丈夫で荒れにくくて白いから餅みたいって、職場の人達からは羨ましがられるけど」
 
 もう一度手を恭しく持ち上げられて、甲に頬ずりされたから暖かくも滑らかな感触に柚希はもじもじっと足先を動かしてしまう。

「初めて出会った時、怪我した僕を手当てしてくれたよね。人を癒して慰められる手だ。柔らかくて白くて嫋やかで……。今思えば母さんを亡くしたばかりの僕はたぶん自分では平気なつもりでいたけど、本当はこびりついて拭えない寂しさを見て見ぬふりをしてた。そうしないと。同じぐらい傷ついている父さんと二人この先やっていける自信がなかったから……。そんな時に傷を拭って綺麗にしてくれた柚希の手当ては、そこから浄化されて優しい温かな心映えまで染みてくる気がした。僕の心までガーゼでふわってくるんでくれたような。そんな気持ちにさせてくれた」
「カズ……」
「それから柚希の大きくて黒目がちな瞳が好き。朝、黒くて長いまつ毛がそよいでから、ぱちっと開くのを眺めて待つのがすごく好き。起き抜けから澄み渡っていて、僕の心も洗い流される心地になるんだ。それから今みたいに、じっと見つめられると堪らない気持ちにさせてくれる。僕の目は硝子玉みたいで感情が読み取りにくいって人から言われるけど、柚希の瞳はいつもしっとり潤んで気持ちを雄弁に語ってくれる。その瞳を僕にだけ向けて、僕だけを見つめ続けて欲しいってずっと思っていたよ。だから兄さんが誰かと一緒にいる時は胸の中が恋焦がれて、絶えない炎で炙られていた」
 
 いいすがら再び指先に秀麗な美貌を見せつけるような口づけをおとされて、指の先にその情動の炎が移り灯ったようにじくっと熱く感じてしまう。

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