仔犬のキス 狼の口付け ~遅発性オメガは義弟に執心される~

天埜鳩愛

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第二部 ありがとう、おめでとう よろしくね

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「·····起きなかったくせに。これまで起きた試しがない」

 その恨みがましい唇に、なんで?と柚希は疑問が湧いたが、和哉の中では長い間柚希への片思いを募らせ拗らせていた時のあれこれの記憶が思い起こされているのだ。

「いたたっ」
「まだまだ、足りないよ。僕はね。ずっとこんなふうに二人っきりで過ごせるクリスマスを望んでたんだ。僕のこと、ちゃんとそういう目で見て欲しい」
「じゃあさ、お兄ちゃんをそういう風に扱ってみろよ?」
「兄さんのこと、口説けばいいの?    いいよ。初めて会った人みたいにしてみる?」
「おいおい、初めてなのに姫抱っこ?」
「それはいいの。この体勢最高だから離したくない」
 「同感!」
 
 和哉が大きな身体を二人掛けで狭めのソファーの上で動かし、向かい合わせになるように柚希を抱えなおしたから、柚希は適度に太く筋肉質な和哉の首に腕を回して抱き着いた。すると和哉が少しだけ背を伸ばし、ちょっと余所行きの気取った笑顔で柚希の顔を覗き込んできた。その目に宿る悪戯っ子っぽい光は幼い頃の彼を彷彿とさせてそれにもまた柚希は胸がきゅんっと高鳴る。

「『おひとりですか?』」
「え? いきなり?? どういうシチュ?」
「カフェで相席っていうのにしよう。『ここ、隣。空いてますか?』」
「『ああ、はい。どうぞ。どうぞ。今荷物どかします』」
 
 すると和哉は少し思案気な顔で口元に手を当ててから、これは幾たびこの手で女の子を落としてきたんじゃないかというような端整な微笑みを浮かべた。

「『よく公園の見えるこの窓側の席に座ってますよね?    実は以前から·····貴方のことをこの店のテラスで見かけてたんです。ページを繰る手が綺麗な人だなあと思って』」
 
 滑かな声色は普段の聞き取りやすくワントーン上がったそれではなくて、耳に心地よい男性美に溢れた低音だ。車の中で切なく煽られたお腹の辺りに響くそれに、くらっとしながら柚希はわあわあと声を上げてたぶらかされそうな気持ちを反らした。

「うわ、急だな。これってナンパ?」
「兄さんも、ちゃんとやって。僕だけじゃ恥ずかしいだろ?」
「はいはい。ちょい、酒足して。しらふじゃちょっとね?」
「柚希」
「あーはいはい。『実は俺も、なんかたまに背が高くてすごく格好良い人通るなあって思ってました。目があったの、あれ偶然じゃなかったんですね~ 嬉しいです。お隣どうぞ~』」

 柚希も負けじとにっこり目元を下げてなるたけ爽やさを演出して笑ったら、和哉が急に喉元でぐうっと唸ってから、早急な口づけをしてきたので頬をつねってから舐られた後の濡れた唇で柚希は色気なくぷはっとやる。

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