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第二部 ありがとう、おめでとう よろしくね

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  番になってからの二か月。若い和哉に求められたときは求められるまま流されて、何度か肌を合わせてきたこともあるが、いつでも翌日が仕事の柚希を気遣ってか、負担にならない甘く優しいやり取りをしてきたことが多かった。
 明日も仕事だから、もしかしたら食事をとったら映画を見終わる前、早々に床に就くつもりなのかもしれない。

(うう……。これから抱くよって宣言されたみたいで……。死ぬほど恥ずかしい)

 風呂で豪快にごしごし身体を洗っている時もさっきの和哉の発言を意識せずにはいられない。なんとなく時間をかけて身体を洗っていると思われるのもしゃくで、折角金木犀に似た香りのする入浴剤が使われている湯船に、つかって大して立たないうちに出てくると、なぜだかおいていたはずのいつもの着心地はいいがややくたびれたライトグレーのスウェットセットがない。

「おーい。和哉? ここ置いておいたやつ、ないんだけど」
「はい、こっち着て」
「え? はあ?? なんだこれ??」
「兄さんに似合うと思って買ってたんだよね。この色、兄さん色白だからすごく映えると思うんだ。僕も色違いの買ったから、きてよね?」

 がらっと扉を開けて和哉が満面の笑みで手渡してくれたのは、若い女性に人気のブランドの、ふわふわもこもこっとした部屋着だった。
 しかもくすんではいるが柚希に差しだされたものはまごうことなき、薄いピンク色。襟があるカーディガン調がゆったり品良い感じで、いわゆるユニセックスタイプなのかもしれないが、20代男子として一応ピンクの部類の入る色合いを着るのは正直恥ずかしい。今どきはこういったお洒落な服を着るのは皆抵抗はないのかもしれない。しかし学生時代から専門学校の半ばぐらいまでお洒落着といったらちょっとよさめなジャージ程度のファッションセンスで暮らしてきた柚希には少々ハードルが高かった。勿論最近ではだいぶ晶と柚希に矯正されて贈られた服をそのまんま着ることでやや、見た目のセンスは上がったと言えた。

 パジャマは胸元にさがら刺繍のエンブレムが縫い込まれていて、ふわふわとスポンジケーキのような肌触りは極上と言えたので触感が気に入って思わず頬ずりしてしまった。

「うん、まあ。肌触りよさそうではあるしなあ」

 家の中で着るものだし仕方ないと思って身に着けようとしたが、その前に下着も見当たらずにパジャマの間を確認すると、とんでもないものがぴらり、と落ちてきたのだ。
 最初、ハンカチか何かかと思ったそれは……。

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