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第二部 ありがとう、おめでとう よろしくね
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長い長い片思いの間、柚希をめぐる嫉妬心は和哉にとっては慣れ親しんだ感情であったにもかかわらず、自分が唯一の男となり逆に攻め込まれる立場になったことへの、切り替えがうまくいかないようだ。
素直な年下の男は少し恥ずかしそうに凛々しい眉を下げて、柚希の髪や頭をゆっくりと撫ぜてきた。和哉のそんな表情に弱い柚希は、申し訳なさに胸が疼かせ、睫毛の長い大きな瞳からはまた涙が零れ落ちた。
両手で身長の割に小さな柚希の顔を頬ごと覆うように添えた和哉の指先がまだ熱を持つ水滴を拭い、兄に詫びるようにかすかに触れるだけの口付けをした。
「カズ……」
「僕はね、今日は兄さんと楽しい思い出を作ることしか一日考えていなくてさ。迎えに来る時間が待ち遠しくて仕方なかったよ。高校生の時に憧れた普通の恋人同士がするような、すごくベタなデートみたいなことしてみたいとかずっと願ってきたから……。兄さんと手を繋いでイルミネーション見て、家に戻ったら二人で映画見ながら食事して……。兄さんの大好きな三日月屋のデコレーションケーキ。口いっぱいに頬張ったら兄さんどんな笑顔になるんだろうって。そんな幸せなことばかり考えてた……」
心を躍らせて迎えにいった番が、まさか恋敵と親密そうな雰囲気を漂わせながらイルミネーションの前で寄り添っているなどと、流石の和哉にも想像もつかなかった。
(そうだった。二人でイルミネーション見ようねって……。俺はカズとの約束を破ってた……。一番大事な奴、悲しませてどうするんだよ。柚希、お前どっち向いて生きてるんだ。誰にでもいい顔しようとして! 本当に、馬鹿野郎だ)
心の中で自分を罵り、少しずつ落ち着いてきた身体の高まりにほっと息を吐きながら、柚希は今度こそ素直に頭を下げた。
「俺こそ、ごめん。和哉が嫌な気分になるって、ちょっと考えればわかるぐらいなのに。……軽率だった」
「いいんだ。佐々木先輩とは、付き合い長い付き合いだろ……。僕ら二人ともさ? お別れの挨拶したくて、柚希の顔を見たくなったとか、そんな感じなんだろ? 」
「……うん」
全てを話してしまった方がいいのか、端的な事実だけを共有すればよいのか。柚希は迷って、ただ頷くだけにとどめた。
素直な年下の男は少し恥ずかしそうに凛々しい眉を下げて、柚希の髪や頭をゆっくりと撫ぜてきた。和哉のそんな表情に弱い柚希は、申し訳なさに胸が疼かせ、睫毛の長い大きな瞳からはまた涙が零れ落ちた。
両手で身長の割に小さな柚希の顔を頬ごと覆うように添えた和哉の指先がまだ熱を持つ水滴を拭い、兄に詫びるようにかすかに触れるだけの口付けをした。
「カズ……」
「僕はね、今日は兄さんと楽しい思い出を作ることしか一日考えていなくてさ。迎えに来る時間が待ち遠しくて仕方なかったよ。高校生の時に憧れた普通の恋人同士がするような、すごくベタなデートみたいなことしてみたいとかずっと願ってきたから……。兄さんと手を繋いでイルミネーション見て、家に戻ったら二人で映画見ながら食事して……。兄さんの大好きな三日月屋のデコレーションケーキ。口いっぱいに頬張ったら兄さんどんな笑顔になるんだろうって。そんな幸せなことばかり考えてた……」
心を躍らせて迎えにいった番が、まさか恋敵と親密そうな雰囲気を漂わせながらイルミネーションの前で寄り添っているなどと、流石の和哉にも想像もつかなかった。
(そうだった。二人でイルミネーション見ようねって……。俺はカズとの約束を破ってた……。一番大事な奴、悲しませてどうするんだよ。柚希、お前どっち向いて生きてるんだ。誰にでもいい顔しようとして! 本当に、馬鹿野郎だ)
心の中で自分を罵り、少しずつ落ち着いてきた身体の高まりにほっと息を吐きながら、柚希は今度こそ素直に頭を下げた。
「俺こそ、ごめん。和哉が嫌な気分になるって、ちょっと考えればわかるぐらいなのに。……軽率だった」
「いいんだ。佐々木先輩とは、付き合い長い付き合いだろ……。僕ら二人ともさ? お別れの挨拶したくて、柚希の顔を見たくなったとか、そんな感じなんだろ? 」
「……うん」
全てを話してしまった方がいいのか、端的な事実だけを共有すればよいのか。柚希は迷って、ただ頷くだけにとどめた。
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