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第二部 ありがとう、おめでとう よろしくね
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「楽しいイヴになるといいんですけどね……」
そんな風にやや押し殺したハスキーな声で和哉が薄い微笑みを唇に浮かべながら目元は笑わずに答えて、柚希の手を離して両手に荷物を抱えた。突然手を離され、柚希は親に取り残された子供のように顔を哀し気にゆがめて片手をポケットに突っ込んで頭を下げてきた。
「だよな~。冷静なわけないよな~」
「ごめん、ありがとう。心配おかけしました。帰ります」
「おう、分かった。気をつけて」
ぐずっと鼻水を啜りながら小さく頭を下げた殊勝な様子の柚希は、そのまま背の高い弟の後ろを微妙な距離感を保って国道の方へ歩き去っていった。
とぼとぼ、という音でも聞こえてきそうなほど項垂れた柚希の後姿があまりにも憐れに見えて、三枝は日頃は職場で皆を気遣ってばかりいる気のいい男の身を案じずにはいられなかった。
喧嘩するなよ……。あんま兄貴いじめるなよ? 和哉。お前たち長いこと想い合って、晴れて番になった仲なんだろう?? こんなに広い世界の中で相愛の相手を見つけられたって、それって本当にすごいことなんだからな? 三枝は二人にそんな風に声をかけてやりたかったが胸の内にとどめた。
和哉は車の後部座席に荷物を置いて、柚希も先に助手席に乗り込んだ。
和哉はコートも後部座席に置いて、兄を迎えに来るだけだというのにこの間二人で買い物に行った時に購入したばかりのおろしたての服を着ている。
(今日の夜を楽しみにしていてくれたのに……。ごめん。和哉)
押し黙り中々車を出さない和哉の横顔に柚希も言葉をかけられずに戸惑ったまま、晶から受け取った紙袋の口を小さく丸めてボディーバッグの下に隠し気味に抱えるとシートに深く身を埋めて瞳を閉じた。
(やっぱり元カレと二人でこそこそ会ってるなんて、やだよな)
さっきまでは晶に対して抱いていた罪悪感から彼の行動を受け入れてしまったが、それは逆を返せば和哉を傷つけてしまう行為にも十分になり得た。頭の隅ではそう分かっていたつもりでも、柚希は晶を拒めなかった。
「ごめんなさい」
絞り出した呟きに、ハンドルに額を押し付けると、深く重く悩ましいため息をついた。
「それはさ、何に対するごめん? 何か後ろめたいことがあるってこと?」
「ないよ! そんなの……」
即答できたが、語尾がやや震えた兄の真意を透かし見るように、和哉の綺麗な瞳が今は凝らされる。
そんな風にやや押し殺したハスキーな声で和哉が薄い微笑みを唇に浮かべながら目元は笑わずに答えて、柚希の手を離して両手に荷物を抱えた。突然手を離され、柚希は親に取り残された子供のように顔を哀し気にゆがめて片手をポケットに突っ込んで頭を下げてきた。
「だよな~。冷静なわけないよな~」
「ごめん、ありがとう。心配おかけしました。帰ります」
「おう、分かった。気をつけて」
ぐずっと鼻水を啜りながら小さく頭を下げた殊勝な様子の柚希は、そのまま背の高い弟の後ろを微妙な距離感を保って国道の方へ歩き去っていった。
とぼとぼ、という音でも聞こえてきそうなほど項垂れた柚希の後姿があまりにも憐れに見えて、三枝は日頃は職場で皆を気遣ってばかりいる気のいい男の身を案じずにはいられなかった。
喧嘩するなよ……。あんま兄貴いじめるなよ? 和哉。お前たち長いこと想い合って、晴れて番になった仲なんだろう?? こんなに広い世界の中で相愛の相手を見つけられたって、それって本当にすごいことなんだからな? 三枝は二人にそんな風に声をかけてやりたかったが胸の内にとどめた。
和哉は車の後部座席に荷物を置いて、柚希も先に助手席に乗り込んだ。
和哉はコートも後部座席に置いて、兄を迎えに来るだけだというのにこの間二人で買い物に行った時に購入したばかりのおろしたての服を着ている。
(今日の夜を楽しみにしていてくれたのに……。ごめん。和哉)
押し黙り中々車を出さない和哉の横顔に柚希も言葉をかけられずに戸惑ったまま、晶から受け取った紙袋の口を小さく丸めてボディーバッグの下に隠し気味に抱えるとシートに深く身を埋めて瞳を閉じた。
(やっぱり元カレと二人でこそこそ会ってるなんて、やだよな)
さっきまでは晶に対して抱いていた罪悪感から彼の行動を受け入れてしまったが、それは逆を返せば和哉を傷つけてしまう行為にも十分になり得た。頭の隅ではそう分かっていたつもりでも、柚希は晶を拒めなかった。
「ごめんなさい」
絞り出した呟きに、ハンドルに額を押し付けると、深く重く悩ましいため息をついた。
「それはさ、何に対するごめん? 何か後ろめたいことがあるってこと?」
「ないよ! そんなの……」
即答できたが、語尾がやや震えた兄の真意を透かし見るように、和哉の綺麗な瞳が今は凝らされる。
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