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第二部 ありがとう、おめでとう よろしくね
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「コートを元気よく駆けまわって、みんなを励ます柚希にずっと憧れていた。眩しかったよ。あの頃の柚希は本当に。俺は……。学生時代は口下手で身体も大きいし顔も強面だから、同級生から遠巻きにされがちで……。一つ年上の柚希たちの学年と同じチームに入ってからも生意気だって言われて浮きかけてた。それを柚希が仲間に引き込んでくれて、嬉しかった」
「それは晶があまりにも完璧すぎて……。みんなは気後れしていたんだと思うよ」
「そんなことないさ。柚希、沢山遊びにも連れてってくれたよな? プロチームの試合も一緒に見に行ったし、ゲーセンも、食べ放題で腹が痛くなるほど肉食ったり……。馬鹿やって騒いで、それがすごく楽しかったよ。柚希が人との付き合い方を教えてくれたから、同じ学年にも友達がたくさんできたんだ」
「そんな風に思ってくれてたんだ。ありがとう」
「だけど柚希は人気者で、年上のβの男で、彼女もいて……。俺はその時も自分の迷いを踏み越えられなかったんだ。あの頃の俺はただ、自分の初恋一つままならない子供だった。……結局、今も成長してないな」
「柚希の傍にいられたあの頃に戻って、偽りなく真っすぐに気持ちを伝え続けたら、お前は俺のことを選んでくれたんだろうか、そんなことばかり考えてしまう」
しかし柚希の真っ白な首筋に刻まれた消えぬ誓いの痕に目を移して、それはいまさら考えても仕方のないことだとやや項垂れて自重する。
今だからこそこれほど素直に話せることに、二人ともむしろ別れの気配を色濃く感じ始めた。
「晶、聞いて」
柚希は自分を奮い立たせるようにぎゅっと両手の拳を握りしめて、涙を振り切るように袖でごしっと瞳を擦る。
撥水性の良い上着は涙を弾いて落とし、不安を打ち消すように闇夜にそれを溶け込ませた。
「ごめん。晶のことを嫌いになったわけじゃない。お前は本当に、俺にはもったいない、すごくいい男だって知ってる。……この台詞、月並みで俺でもムカつくけど、本当にそうとしか言えない。きっと俺はお前と番っても幸せに暮らしていけたと思う。でもさ、さっき言ったのは和哉と離れることが大きな減点になるから和哉を選んだって思われてるってことだよな? 確かにそうかもしれない。お前と番ったら、和哉と一生もう会えなくなってそれが減点って……。でも違うよ。そこもひっくるめて、大きな加点。和哉と離れるのが嫌じゃなくて、和哉とこれからも一緒にいたいっていう気持ちが、大きな加点だったってこと」
晶を目の前にして、柚希は両足が震えて鼓動が耳まで届くほどに緊張から鼓動が高鳴った。
(突き刺せ、柚希。迷うな! イイ人ぶるな! お前はどうあったって、酷い奴なんだ。ならもう、晶の心臓を一息に……。一度殺せ、お前の手で)
晶だけでなく、おのれにすら生まれた迷いを断ち切るために、柚希はやや震え声で、しかし双眸に力を込めて晶に言い切った。
「ごめん。これからの長い人生、離れずに共に過ごしたかったのは、俺にとって和哉だった」
晶は、眉を一瞬寄せ、苦しみに耐えるような表情を見せて……。
その後はただ穏やかに頷いた。
「分かっている。困らせてすまない。お前のその不器用なところも全てひっくるめて、愛してたよ。ずっと」
柚希の最後の誠意を、敢えて全て受け止めてくれた晶の優しさに触れ、耐えきれなくて、再び涙が零れ落ちる。柚希が嗚咽を漏らしかけたしゃがみこまんばかりの勢いで頭を下げたのを、晶が慰めるようにその手を彼の肩に載せた、その時に。
「柚希!!」
まるで狼が番を探して月に遠吠えを響かせるように、まだかなり川沿いの遠い位置からでも冷たい空気を引き裂くように発せられたそれは、勿論和哉のも怒号ともいうべき呼び声だった。
「それは晶があまりにも完璧すぎて……。みんなは気後れしていたんだと思うよ」
「そんなことないさ。柚希、沢山遊びにも連れてってくれたよな? プロチームの試合も一緒に見に行ったし、ゲーセンも、食べ放題で腹が痛くなるほど肉食ったり……。馬鹿やって騒いで、それがすごく楽しかったよ。柚希が人との付き合い方を教えてくれたから、同じ学年にも友達がたくさんできたんだ」
「そんな風に思ってくれてたんだ。ありがとう」
「だけど柚希は人気者で、年上のβの男で、彼女もいて……。俺はその時も自分の迷いを踏み越えられなかったんだ。あの頃の俺はただ、自分の初恋一つままならない子供だった。……結局、今も成長してないな」
「柚希の傍にいられたあの頃に戻って、偽りなく真っすぐに気持ちを伝え続けたら、お前は俺のことを選んでくれたんだろうか、そんなことばかり考えてしまう」
しかし柚希の真っ白な首筋に刻まれた消えぬ誓いの痕に目を移して、それはいまさら考えても仕方のないことだとやや項垂れて自重する。
今だからこそこれほど素直に話せることに、二人ともむしろ別れの気配を色濃く感じ始めた。
「晶、聞いて」
柚希は自分を奮い立たせるようにぎゅっと両手の拳を握りしめて、涙を振り切るように袖でごしっと瞳を擦る。
撥水性の良い上着は涙を弾いて落とし、不安を打ち消すように闇夜にそれを溶け込ませた。
「ごめん。晶のことを嫌いになったわけじゃない。お前は本当に、俺にはもったいない、すごくいい男だって知ってる。……この台詞、月並みで俺でもムカつくけど、本当にそうとしか言えない。きっと俺はお前と番っても幸せに暮らしていけたと思う。でもさ、さっき言ったのは和哉と離れることが大きな減点になるから和哉を選んだって思われてるってことだよな? 確かにそうかもしれない。お前と番ったら、和哉と一生もう会えなくなってそれが減点って……。でも違うよ。そこもひっくるめて、大きな加点。和哉と離れるのが嫌じゃなくて、和哉とこれからも一緒にいたいっていう気持ちが、大きな加点だったってこと」
晶を目の前にして、柚希は両足が震えて鼓動が耳まで届くほどに緊張から鼓動が高鳴った。
(突き刺せ、柚希。迷うな! イイ人ぶるな! お前はどうあったって、酷い奴なんだ。ならもう、晶の心臓を一息に……。一度殺せ、お前の手で)
晶だけでなく、おのれにすら生まれた迷いを断ち切るために、柚希はやや震え声で、しかし双眸に力を込めて晶に言い切った。
「ごめん。これからの長い人生、離れずに共に過ごしたかったのは、俺にとって和哉だった」
晶は、眉を一瞬寄せ、苦しみに耐えるような表情を見せて……。
その後はただ穏やかに頷いた。
「分かっている。困らせてすまない。お前のその不器用なところも全てひっくるめて、愛してたよ。ずっと」
柚希の最後の誠意を、敢えて全て受け止めてくれた晶の優しさに触れ、耐えきれなくて、再び涙が零れ落ちる。柚希が嗚咽を漏らしかけたしゃがみこまんばかりの勢いで頭を下げたのを、晶が慰めるようにその手を彼の肩に載せた、その時に。
「柚希!!」
まるで狼が番を探して月に遠吠えを響かせるように、まだかなり川沿いの遠い位置からでも冷たい空気を引き裂くように発せられたそれは、勿論和哉のも怒号ともいうべき呼び声だった。
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