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第二部 ありがとう、おめでとう よろしくね

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 (晶と、もっと早くに番になっておけばよかったっていう風に受け取られたのかな……。そういうつもりじゃなかったんだけど)

 晶とはあの日、ホテルで別れて以来連絡を取り合っていない。別に連絡先をブロックされているわけではないし、あのあとも地図アプリには相変わらず晶の愛犬のプードルのアイコンが表示されていた。
 和哉がそれに気がついて何か別のグループに入れたみたいだけれど、だからといって完全につながりが断たれたわけではない。だけれど……。

(流石にもう、晶と連絡とれるような雰囲気じゃないからなあ。でもさ、あいつは本当に……。本当に、いい奴なんだ。後輩としても、恋人としても……。発情期が起こって、気持ちが小さくぎゅってしぼんでた俺に、もう一度外に目を向けて生きられるように外の世界に連れ出してくれた。ある意味恩人なんだ)

 番にはなれなかったけれど、バスケ部の後輩として今でも学生時代の大切な思い出と共にある晶。気まずく別れることになったバスケ部の仲間たちのことだって、今でも心の隅では大切に想っているのと同じだ。晶と交流してきた、あのさんざめく太陽の下笑いあっていた日々の、全て忘れ去ってしまうのは寂しすぎる。だからといってもう柚希から連絡を取ることは許されることはないだろう。

(きちんと、さよなら……。できたんだろうか。俺は)

 今までありがとう。俺なんかを好きになってくれて、ごめん。

 たった一言であれほど愛してくれた男の手を離して、和哉の元に留まった。晶はどんな顔をしてあの場を去ったのだろう。最後に画面越しに見た晶の顔を思い出すと、胸が苦しい。
 
 しかしそんな風に思う柚希に昨日の晩、和哉に執拗に噛みつかれた項がずきんっと痛んで責め立ててくる。

(番がいるのに少しでも他の男のことを想うなんて……。どうかしてるよな)

 こんなふうによそ見ともいえる物思いに沈んでしまうのは、番になって時間が少し流れて、色々と考える余裕が生まれたからだろうか。それだって和哉が今、柚希を深い愛情をもって支えてくれているからできることだ。

 実家から取って返して車で柚希を迎えに来てくれた和哉は、もう普段通りの穏やかな彼に戻っていた。店舗のある近隣でも有名な長い商店街へ迎える路地の手前、大きな道路の路肩に車を止めると、柚希の降り際、奪うように口づけを送ってぎゅっと抱きしめてくれた。

「すごく、今夜が待ち遠しいよ。仕事頑張ってきてね? 兄さん」
「うん……。夜が楽しみだな。送ってくれて、ありがとうな。いってくる」

 今はこんな切ない気持ちも和哉から愛情を注がれ、少しずつ番としての絆が深まればゆっくりと薄れていくのだろうか。
 和哉は柚希が通りの向こうに去るまで車を止めて見守っていてくれるだろうから、敢えて小走りで歩み出した。
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