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第二部 ありがとう、おめでとう よろしくね

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☆和哉視点です。子どもの頃のクリスマスの思い出は?

(クリスマスの思い出……)
 
 和哉にとってクリスマスの思い出といえば幼い頃に父と母と過ごした温かな記憶もあるが、和哉が小5で母が亡くなったその年の冬、柚希たち母子と行ったささやかなクリスマスパーティーとその晩のことが最も印象深い。

 その年のクリスマスはたまたま土曜日に当たっていた。昼は近所の寺に母の墓参りに行き、夜は父子二人より和哉が懐いている柚希が一緒の方が喜ぶだろうと、敦哉が気を利かせてくれて桃乃も交えた四人でクリスマスの食卓を囲むことになったのだ。
 柚希と桃乃が丹精込めた料理を和哉たちの家まで持ってきてくれて、敦哉が柚希が喜ぶからとこれまた大きな大きなクリスマスケーキを奮発して買ってきた。父母どちらの発案か分からないが、多分ちょっと発想が飛んでいるところがある桃乃が夫の位牌と和香の位牌も食卓を囲めるようにとテーブルに置いて、小さなお膳まで据えていた。

(これ、流石にシュールすぎでしょ)

 と思春期に差し掛かっていた和哉は思ったが、寒くないようにと位牌にハンドタオルを着せ掛けてあげている柚希も優しいけれど大分天然で愉快なお兄ちゃんだなあと思った。そして柚希のそういうところが可愛いのだ。

 そんな中、なんとなく大人たちと柚希がたまにトイレやら別の部屋に何か取りに行くやら借りに行くやらいって、和哉に黙ってこそこそと何やら相談しているのが気に障っていたのだ。
 時折廊下から『プレゼントが……』とか『サンタが……』とか聞こえてくるのでこっそりやるならもっとしっかりこっそりして欲しいとも思った。しかし敦哉、桃乃、柚希の三人はしっかり者の癖にどこか抜けているという点では似たもの同士ばかりで、つまりは全員ボケの為突っ込みの和哉がいないと誰もが似たような天然な行動をとりがちなのだ。

(多分、あれだな……。枕元にプレゼント置こうか今サンタいないよってカミングアウトして渡すかを相談してるんだ……)

 母の和香(こちらも天然)はのちに聞いた話だと中学生を卒業するまでサンタがいると信じているタイプの女の子だったらしい。
 高校の同級生である父と付き合いだした時、父が母にプレゼントを渡した時にそんな会話をしたらしい。子どもの頃は祖父の職場の友人でサンタっぽい人に頼んで扮装をしてプレゼントを手渡ししてもらったり、大きくなってからは枕元にプレゼントを置いて、和香がサンタの為に用意をしたビスケットと牛乳を食べてサンタの存在感を見せつけるという熱のこもり様だ。
 愛情いっぱいで娘命の、今は遠方にすむ祖父母らしいやり取り。和香が亡くなった時当たり所がなくて父を責めたことを悔いて、今年のクリスマスのは父への長い手紙と和哉へのクリスマスプレゼント、そして仏壇には2人が贈ってくれた母が愛した優美な薄ピンクの薔薇が飾られていた。

 そんな和香なので勿論、和哉への「サンタは実在する!」という布教活動を迫真の演技でし続けてきたわけで、サンタはいないだろうなあと小2ぐらいから薄々分かっていた和哉は優しい母に付き合ってサンタを信じるふりをし続けざるを得なかった。

(僕ももう高学年だし、母さん居ないんだからもうそろそろあれ終わりでいいんだけどなあ)
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