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第二部 ありがとう、おめでとう よろしくね
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12月半ば。ちょうどアパートの更新時期とも重なったので半同棲になっている現状もあるので二人で公園のさらに裏にある立派な門構えの大家さんの家に挨拶にった。
すると今は息子に仕事を譲って隠居をしていた元大家のお婆ちゃんが奥から出てきてくれた。
「あの小さかった柚くんが立派になって、こんなに色男の番もできたんだね」
お婆ちゃんは柚希の手を皺くちゃの温かい手で取って、涙を流して喜んでくれた。
元大家さんは昔母子が大変お世話になった方だ。
かつて店子だったオメガ性の女性がアルファに捨てられ、身体を壊して亡くなったのを助けられなかったのだそうだ。それが心のわだかまりとなっていた大家さんは代わりに柚希達母子に手を差し伸べてくれたのだ。
幸せな母の近況も自分の仕事のこともいっぱしの社会人になれたと伝えられたことが、柚希にはなにより嬉しい。
「親孝行沢山しておあげよ。柚くんのお母さんは本当に苦労してここまで育ててくれたんだからね」
「うん。わかってるよ」
ビニール袋に二袋も林檎や蜜柑をもらって帰路につきながら柚希は心がじんわり温まったような感慨深い気持ちになった。
「僕も久々にあのお婆ちゃんの顔を見たよ。たまに外周りの掃除していた人、大家さんだったんだね。良い人だよね。柚希の顔見て泣いていた」
「俺引っ越してきたころは友達もいなかったし……。あの婆ちゃんと一緒に草むしりして、お駄賃代わりにお菓子貰ったり、たまに夕飯も食べさせてもらったり、すごく可愛がってもらったんだ。うちって実はかなり訳ありだろ? 保証人もいなかったお母さんに特別に部屋を貸してくれたんだよね。すごい恩人。思えばさ、母さんと父さんもだけど……。転校した手の時の学校の先生とか、俺が熱出した時夜中に開けてくれたお医者さんとか。……俺忘れてたな。母さん以外にもさ、本当は沢山の人に大切にしてもらって愛情をもらって俺って育ってきたんだなって。感謝しないとなあ」
どこまでも澄んだ冬の青空を見上げて晴々した柚希の顔を見て、和哉は僅かに浮かない表情を見せたがすぐに笑顔で頷いて二人でアパートに戻ってきた。
柚希のアパートは狭いので元々母子で暮らしていた時も夜になったら奥の部屋のベッドに柚希、日頃は手前のテレビのある部屋のカウチソファーをベッドに変身させて母が眠っていた。時間になったら静かに消灯して夜更かしはしない。母子で身を寄せ合ってつましく暮らしていた。
今はそのアパートが愛情に満ちた二人の住処だ。
奥のシングルベッドでは男二人では狭すぎて安眠できない。和哉は柚希を抱きしめて眠たがったが、柚希がベッド、和哉が地面よりはましな、すのこベッドを床に敷き詰め、そこに実家から持ってきた布団を敷いて眠っている。
ちょっと甘い雰囲気になったらどちらかの布団の上で……。といった感じなのだが柚希が仕事で疲れて大体ソファーで寝落ちしているのを、和哉が仕方なしにベッドに抱き上げきつきつに添い寝して……。二人とも変な姿勢で眠ってしまって朝起きると身体が痛いというのを繰り返している。
和哉が就職したらもっと広いところに引っ越して、男二人でも腕がのばせる巨大ベッドを購入するというのが二人の目標だ。
(親孝行やっとできる気がしてきた……。やっと人生の再スタート切れた気がする)
そんな風に柚希はしみじみと思うのだ。勿論Ω判定をされた後だって一生懸命に生活してきていたし、周りと折り合いをつけながらも必死にやってきたつもりだったけれど、今の満たされた気持ちには到底かなわないだろう。
すると今は息子に仕事を譲って隠居をしていた元大家のお婆ちゃんが奥から出てきてくれた。
「あの小さかった柚くんが立派になって、こんなに色男の番もできたんだね」
お婆ちゃんは柚希の手を皺くちゃの温かい手で取って、涙を流して喜んでくれた。
元大家さんは昔母子が大変お世話になった方だ。
かつて店子だったオメガ性の女性がアルファに捨てられ、身体を壊して亡くなったのを助けられなかったのだそうだ。それが心のわだかまりとなっていた大家さんは代わりに柚希達母子に手を差し伸べてくれたのだ。
幸せな母の近況も自分の仕事のこともいっぱしの社会人になれたと伝えられたことが、柚希にはなにより嬉しい。
「親孝行沢山しておあげよ。柚くんのお母さんは本当に苦労してここまで育ててくれたんだからね」
「うん。わかってるよ」
ビニール袋に二袋も林檎や蜜柑をもらって帰路につきながら柚希は心がじんわり温まったような感慨深い気持ちになった。
「僕も久々にあのお婆ちゃんの顔を見たよ。たまに外周りの掃除していた人、大家さんだったんだね。良い人だよね。柚希の顔見て泣いていた」
「俺引っ越してきたころは友達もいなかったし……。あの婆ちゃんと一緒に草むしりして、お駄賃代わりにお菓子貰ったり、たまに夕飯も食べさせてもらったり、すごく可愛がってもらったんだ。うちって実はかなり訳ありだろ? 保証人もいなかったお母さんに特別に部屋を貸してくれたんだよね。すごい恩人。思えばさ、母さんと父さんもだけど……。転校した手の時の学校の先生とか、俺が熱出した時夜中に開けてくれたお医者さんとか。……俺忘れてたな。母さん以外にもさ、本当は沢山の人に大切にしてもらって愛情をもらって俺って育ってきたんだなって。感謝しないとなあ」
どこまでも澄んだ冬の青空を見上げて晴々した柚希の顔を見て、和哉は僅かに浮かない表情を見せたがすぐに笑顔で頷いて二人でアパートに戻ってきた。
柚希のアパートは狭いので元々母子で暮らしていた時も夜になったら奥の部屋のベッドに柚希、日頃は手前のテレビのある部屋のカウチソファーをベッドに変身させて母が眠っていた。時間になったら静かに消灯して夜更かしはしない。母子で身を寄せ合ってつましく暮らしていた。
今はそのアパートが愛情に満ちた二人の住処だ。
奥のシングルベッドでは男二人では狭すぎて安眠できない。和哉は柚希を抱きしめて眠たがったが、柚希がベッド、和哉が地面よりはましな、すのこベッドを床に敷き詰め、そこに実家から持ってきた布団を敷いて眠っている。
ちょっと甘い雰囲気になったらどちらかの布団の上で……。といった感じなのだが柚希が仕事で疲れて大体ソファーで寝落ちしているのを、和哉が仕方なしにベッドに抱き上げきつきつに添い寝して……。二人とも変な姿勢で眠ってしまって朝起きると身体が痛いというのを繰り返している。
和哉が就職したらもっと広いところに引っ越して、男二人でも腕がのばせる巨大ベッドを購入するというのが二人の目標だ。
(親孝行やっとできる気がしてきた……。やっと人生の再スタート切れた気がする)
そんな風に柚希はしみじみと思うのだ。勿論Ω判定をされた後だって一生懸命に生活してきていたし、周りと折り合いをつけながらも必死にやってきたつもりだったけれど、今の満たされた気持ちには到底かなわないだろう。
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