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第二部 ありがとう、おめでとう よろしくね

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  和哉の本心としては、番と離れて暮らすのは耐え難いようだ。しかし和哉がまだ学生の間は別居していようという柚希の意思を受け止め尊重してくれている。

 柚希にもこの数年苦しみ悩み掴んだ、今の柚希の生活というものがある。
 社会に出て右も左もわからなかった頃に比べたら、今は自分の意見を出して商品開発にも携われるようになった。
 対して和哉はこれから社会人となり、生活全般が変化する手前だ。これからの二人のことはゆっくりと共に考えようと、年上としてそんな風に和哉に真剣に話をしたのだ。
 番になりたての頃、柚希に仕事を辞めて自分の傍にいて欲しいなどと激情のままに迫っていた和哉も、頭が冷えてきたら態度が軟化をして、やや不承不承ながら了承してくれたのだ。

「なあ、和哉。長い人生これから先、ずーっと一緒にいられるわけだし、あと一年と少しぐらい耐えられるだろ? それにほら恋人気分も味わえるからちょっと楽しいだろ。離れて暮らしてないとまた、兄弟感覚抜けきらなくなるし」
「それは困る。恋人気分の方がいい」
「な? そうだろう? お前が通ってきてくれるの、嬉しいからさ」

 恋人という単語を持ち出すと一瞬眉を顰め複雑そうな顔をする和哉だが、柚希が素直な気持ちを口にすればするだけ機嫌もよくなるのでこういうところは御しやすい。
 
 とはいえ、あの和哉が番と離れて居られるはずもない。
 父母に挨拶をした翌日には柚希のアパートから一度実家にとってかえすと、大きなスーツケースに私物をまとめて柚希のアパートににこにこしながら乗り込んできた。

「一緒に暮らすのは先でも、僕が泊まりに来る分にはいいよね? まだ僕は学生だから時間の融通が利くし、忙しい兄さんの生活全般サポートできるし」
 などと学生であることを逆手にとってそんな風に迫ってきた。そもそも和哉に甘い柚希が否といえるはずもない。

(まあ、俺もカズ君と一緒にいたいし……)
 などとお得意の絆され流され根性で大目に見ている間に、お洒落な和哉が洋服だの靴だのをお店が開けるのではないかというほどの荷物を柚希の家に持ち込んできた。
 もちろん大学で当座使う荷物も大部分は柚希のアパート、必要な時だけ実家に帰ってといった感じに暮らしている。

 たまに主に桃乃の体調を気遣って家に戻るが、なにせ隣り街なのでどんなに遅くなっても必ず寝に帰る場所は柚希の元。ゆえに半同棲と言っても良い。

 とっとっとっとアパートの階段を登ってくる和哉の足音は軽やかで結構速くて、その音を聞くたび柚希はご主人様の帰りを待っていたワンコのような気持ちになって、料理を温めていた手を止めてまで扉の前にいそいそと立ってしまう。

「ただいま、柚希」
「おかえり、和哉」
 
 なんて頬を染めながら言いあって、和哉が早速ワンコのように覆いかぶさってきてキスをされると、柚希は恥ずかしくて慣れなくていい年した男がいちいちときめいているなんて知られたくなくて、ちょっと嫌がるそぶりを見せてしまう。
 だが内心『うわ、こんな、恥ずかしいのにすんげー嬉しい』と思って、照れてあまり言葉に出さないまでも和哉が傍にいてくれることが柚希は何よりも心躍るのだ。
 昔はあれほど恋愛的な感情を抱くことが他人のそれが青色なら柚希は限りなく水に近い程薄く、どれだけ人気の恋愛ドラマを見ようが可愛い女の子と付き合おうがいまいちピンとこなかった柚希だった。だが今では和哉と一日でも離れていられない。これはもうもう本能からわきあがる実感だった。
 他にも変わったことがある。
 いつもだったら和哉の方がしつこく柚希に連絡を取ってきていたのに、今では仕事の合間に柚希の方が和哉は今どこにいるのかなとアプリで確認してしまったりする。
 見知らぬ場所に和哉のアイコン(なんと『祝番』のあの狼ケーキのアイコン。こっそり写真撮っていたらしい。和哉の友達みんなにもいつもみられている。ちょっと、かなり恥ずかしい)がいっていると、じくりっと心臓に小さな棘が刺さったような心地になって、これが散々職場の女性たちから聞かされてきた恋の疼きなのだと今さらになって柚希は遅まきながらようやく初恋を得たみたいに実感していたのだ。

(でもなんか……。このチクって奴は嫌じゃない。何回も繰り返して繰り返して胸の中で『和哉に会いたいなあ』って反芻すると、そのたび心が熱くなっていくような気分。会えた時の嬉しさは、胸がはち切れそうになるほど和哉が愛おしいって、心が膨らむんだ)
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