仔犬のキス 狼の口付け ~遅発性オメガは義弟に執心される~

天埜鳩愛

文字の大きさ
上 下
173 / 296
第二部 ありがとう、おめでとう よろしくね

2

しおりを挟む
 久々に家族全員が実家で顔を合わせて食卓を囲んでいると、桃乃が敦哉と目配せしてから口を開いた。
「敦哉さんとも話したんだけど。柚希、この家に戻ってこない?」
「ここに……」
あんな風に家を出て行かざるを得なかった手前、両親の心遣いはもちろん嬉しかった。柚希の悲願は家族みんなで仲良く暮らすこと。苦労をかけてばかりの母を幸せにすること。
「俺は……」
 ちらり、と和哉を見るとすごい目力で『僕は、兄さんと二人っきりになれる場所が欲しい』と訴えかけてきた。二人が番になって一か月半あまり。もしかしたら両親からこう誘われる可能性もあるだろうと想定していた。柚希は予め和哉と相談していた答えを口にする。

「俺も成人した男だから一度家を出たら戻らないよ。でもちょくちょく遊びに来るね」
「そうね……。わかったわ」

 最近の母は今まで離れていた時間を取り戻すかのように、やれ夕飯沢山作りすぎたから食べに来て、やれ冬物でいい感じのお洋服を2人分買ったからとりに来てなど、他愛のないことで柚希を呼び出してくれるようになった。

(さんざん心配かけたから、母さんの好きなようにしてあげたい。でも今は和哉との時間も大切にしてあげたい)

 恐らく柚希が思っている以上に、柚希は和哉を傷つけ追い込んできたはずなのだ。彼の気持ちを知ってからは余計にそう思った。
 番として選んだからには、義弟としてだけでなく、番として、将来の夫として彼を支えて幸せにしてあげる責任がある。

「いずれは、和哉もこの家を出ることになると思う。そうなった時は……。俺に和哉を任せて欲しい。ちゃんと幸せにするから。心配しないで」
「まあ、柚希!」
 照れて和哉の方を見ずに、かっぱ巻きを口に頬りこんだら、和哉がテーブルの下で柚希の膝のあたりをぎゅっと握ってきた。促されるように彼を見上げたら、少しだけ目を潤ませている。
「兄さん……、惚れ直す」
「柚くん。和哉をよろしく頼むね」

番になった直後、ふわふわした頭のまま挨拶をした時より、今だからこそもっとしっかり決意を表したかった。柚希は胸を張り、両こぶしを握ると、武士の様にきりっと頭を下げた。

「はい。任せてください」

 その後は酒も入って、家族の団欒は和やかに進んだ。家を出ている間の事を忌憚なく話ができるようになったが何よりうれしい。

「ここに帰るたびに有名洋菓子店のスィーツがあるなあって思ってたけど、やっぱりあれ敦哉さんが買ってきてくれてたんだ。ありがとうございます」
「そうそう敦哉さん、柚くんの仕事の助けになればって、地方出張の時も色々お土産買ってきていたのよね~」

敦哉は柚希が家に帰ってくると聞かされると、決まって会社近くで評判がいいと聞きつけたスィーツを捜し歩いては、柚希の為に買ってきてくれたらしい。その気遣いにもジーンと来てしまう。

(和哉の優しいところは、敦哉さん譲りだよなあって思う)

「……あんなことが罪滅ぼしになるとは思っていたわけじゃなかったが、仕事を頑張る柚君に何かをしてあげたかった」

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

処理中です...