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第二部 ありがとう、おめでとう よろしくね
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柚希が最愛の弟である和哉と番になり日常生活に戻ると、日々は平穏にそして瞬く間に過ぎていった。
穏やかな秋の終わりに冷たい雨が降る日が続き、一雨ごとに気温が低くなっていく。
気が付けば柚希の勤めるお店近くの商店街、その裏手にある川沿いでは今年もXmasのイルミネーションに明かりが灯った。
クリスマス目前の休日の夜、職場に迎えに来てくれた和哉とともに柚希は実家を訪れていた。
「二人とも、おかえりなさい」
玄関を開けたら両親が二人そろって出迎えてくれたのは気恥ずかしかったが『おかえり』の言葉には思わず目頭が熱くなってしまった。
「ただいま。母さん、敦哉さん」
若々しく変わらぬように見えてもやはり少しだけ年を重ねた二人。
敦哉とは番になった直後に挨拶しに来て以来だ。相変わらずの男前だが、改めてまじまじと見るとやや痩せたように見える。
敦哉は息子によく似た凛々しい眉を少し下げて万感の思いを込めた声色で「おかえり、柚くん」と今一度微笑んだ。
(もう突然ヒートが起こるかもって悩んで、敦哉さんを避けなくてもいいんだ)
目がじわっと潤みかけて、なんとか耐えようと柚希は目元に力を籠める。
「ただいま、敦哉さん」
何とかそれだけ返して、泣きそうな顔を見せまいと、靴を脱ぐ素振りでごまかし下を向いた。
「なあに、よそよそしいわね。ここじゃ寒いから、積もる話は部屋に来なさい」
桃乃が玄関のたたきに上がろうとした息子の肩と夫の背をぽんっと叩くと、二人は同時に泣きそうな顔ではにかんだ。
和哉がそっと柚希の腰を抱き寄せる。両親が前を向いたすきに目元に労りのキスをしてくる弟に目を見張ると、和哉はいたずらっぽく微笑んだ。和哉の肩に額を寄せてぐりぐりっと涙ごと顔を押し付けて、柚希は声を張り上げた。
「お邪魔します」
四人はどこか浮かれた足取りで暖かな明かりが零れるダイニングに入っていった。
「すごい、ごちそうだな」
食卓の上には所狭しと柚希と和哉の好物が並び、特大の寿司桶までどーんと置かれていた。兄弟二人が食べ盛りの頃の量を想定しているような分量だが、母は頬を染めて幸せそうだ。そんな笑顔に柚希も癒される。
「ふふ。クリスマスはお互い二人っきりで過ごすものね。今日は家族のお祝いよ。ケーキもホールで買ったの久しぶりで嬉しくなっちゃった。沢山食べてね」
「流石に部活現役でしていた頃ほどは食べられないけど……」
「柚くん。仕事忙しいのかい? 少し痩せたんじゃないか? 和哉が昔みたいに我儘ばかりいって気苦労をかけてるのでは?」
「そんなこと……」
柚希が否定する前に、和哉の方が父に対してやや咎めるように口を開いた。
「我儘なんていうはずないだろ? 柚希は僕の誰よりも大切な『番』なんだからね」
番、の部分の語尾の荒さに柚希すらびっくりして和哉を見上げる。
「カズくんってさ、昔から敦哉さん対してはむきになるよね? こんなに素敵なお父さんなのに」
「あらあら柚希、逆効果よ」
「なんで?」
父一人子一人、支えあってきた仲良し親子なのにとたまに突っかかるのが不思議に思っていたのだ。
ふふっと意味深に微笑む敦哉と、ばつが悪そうな和哉に向かって桃乃が「鈍感な息子でごめんなさいね~」とにこにこっとした。
「なんだよ、鈍感って」
「まあいいから手を洗って席に着きなさい」
穏やかな秋の終わりに冷たい雨が降る日が続き、一雨ごとに気温が低くなっていく。
気が付けば柚希の勤めるお店近くの商店街、その裏手にある川沿いでは今年もXmasのイルミネーションに明かりが灯った。
クリスマス目前の休日の夜、職場に迎えに来てくれた和哉とともに柚希は実家を訪れていた。
「二人とも、おかえりなさい」
玄関を開けたら両親が二人そろって出迎えてくれたのは気恥ずかしかったが『おかえり』の言葉には思わず目頭が熱くなってしまった。
「ただいま。母さん、敦哉さん」
若々しく変わらぬように見えてもやはり少しだけ年を重ねた二人。
敦哉とは番になった直後に挨拶しに来て以来だ。相変わらずの男前だが、改めてまじまじと見るとやや痩せたように見える。
敦哉は息子によく似た凛々しい眉を少し下げて万感の思いを込めた声色で「おかえり、柚くん」と今一度微笑んだ。
(もう突然ヒートが起こるかもって悩んで、敦哉さんを避けなくてもいいんだ)
目がじわっと潤みかけて、なんとか耐えようと柚希は目元に力を籠める。
「ただいま、敦哉さん」
何とかそれだけ返して、泣きそうな顔を見せまいと、靴を脱ぐ素振りでごまかし下を向いた。
「なあに、よそよそしいわね。ここじゃ寒いから、積もる話は部屋に来なさい」
桃乃が玄関のたたきに上がろうとした息子の肩と夫の背をぽんっと叩くと、二人は同時に泣きそうな顔ではにかんだ。
和哉がそっと柚希の腰を抱き寄せる。両親が前を向いたすきに目元に労りのキスをしてくる弟に目を見張ると、和哉はいたずらっぽく微笑んだ。和哉の肩に額を寄せてぐりぐりっと涙ごと顔を押し付けて、柚希は声を張り上げた。
「お邪魔します」
四人はどこか浮かれた足取りで暖かな明かりが零れるダイニングに入っていった。
「すごい、ごちそうだな」
食卓の上には所狭しと柚希と和哉の好物が並び、特大の寿司桶までどーんと置かれていた。兄弟二人が食べ盛りの頃の量を想定しているような分量だが、母は頬を染めて幸せそうだ。そんな笑顔に柚希も癒される。
「ふふ。クリスマスはお互い二人っきりで過ごすものね。今日は家族のお祝いよ。ケーキもホールで買ったの久しぶりで嬉しくなっちゃった。沢山食べてね」
「流石に部活現役でしていた頃ほどは食べられないけど……」
「柚くん。仕事忙しいのかい? 少し痩せたんじゃないか? 和哉が昔みたいに我儘ばかりいって気苦労をかけてるのでは?」
「そんなこと……」
柚希が否定する前に、和哉の方が父に対してやや咎めるように口を開いた。
「我儘なんていうはずないだろ? 柚希は僕の誰よりも大切な『番』なんだからね」
番、の部分の語尾の荒さに柚希すらびっくりして和哉を見上げる。
「カズくんってさ、昔から敦哉さん対してはむきになるよね? こんなに素敵なお父さんなのに」
「あらあら柚希、逆効果よ」
「なんで?」
父一人子一人、支えあってきた仲良し親子なのにとたまに突っかかるのが不思議に思っていたのだ。
ふふっと意味深に微笑む敦哉と、ばつが悪そうな和哉に向かって桃乃が「鈍感な息子でごめんなさいね~」とにこにこっとした。
「なんだよ、鈍感って」
「まあいいから手を洗って席に着きなさい」
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