上 下
161 / 296
黒猫王子は狼騎士に溺愛される🎃(ハッピーハロウィン)

17

しおりを挟む
 柚希は舞台から目線を反らして会場の方を見おろした。さらに集まってきた人の中には商店街の関係者も多い。見れば酒屋の若旦那も酒蔵名前が染め抜かれた紺色の法被に着替えてこちらに手を振ってきた。こちらの姿の方が先ほどの仮装よりよほど洒脱だ。無視するのも悪いので小さく手を振り返してみると、いやに嬉しそうな顔をされた。

(そうだった。若旦那の誤解を解かないといけないから、これが終わったらすぐに地方の地酒の試飲ブースに顔を出してこようかな。でもなんていえばいい? 恋人とは別れましたが、弟と番になりましたって。事実だけど俺の常識が疑われる……)

 そんな風に考えて柚希は不意に怖ろしくなった。自分と和哉はこれまで商店街においては仲の良い兄弟で通ってきた。勿論血が繋がっていないことを知っている人の方が多いと思うが、恋人の晶の存在を知っていた人もいる。
 実際に自分がしでかしたこととはいえ、柚希自身の不実ともいえる心変わりを詰る人がいるかもしれない。
 それはその人の考え方だし、実際柚希も客観的に見たら自分の行いを誠実だとは言えないと思う。
 だが和哉は違う。幼いころからずっと自分のことだけを想ってきてくれた和哉まで、恋人から兄を奪った恐ろしい男だと思われるのはどうかと思った。

(俺が人でなしなのは確かだし。王子様なんて柄じゃない、でも和哉のことは誰も嫌わないで欲しい)

 復帰してからの自分たちを取り巻く環境のことをあまり深く考えないようにしてきたが、急に後ろめたい気持ちでいっぱいになってしまった。
 迷いを振り切り和哉の手を取ったことを後悔したわけではない。今、幸せだとも思う。だけどまだ晶とのことは柚希の中で消化しきれておらず、そこを他人に少しでも触れられるのはまだつらい。
 先ほど若旦那に聞かれた時のように、柚希は足元が覚束ないような心地になって狼狽えて、言わなくてもいいようなことまで口走ってしまうかもしれない。

(和哉のことを、どうしても手放したくなかったから、家族として繋ぎ止められないならば番になるしかないと思ったなんて。そんな本音。倫理観おかしいよな)

 メルヘンチックな遊園地のオリジナルBGMがかかる中、舞台の上ではドレスの裾同士もぶつけ合いながらプリンセスたちが和哉の隣を我先にと奪い合って写真撮影タイムになっている。
 埒が明かないと思ったのか、和哉に代わって実行委員の女性がマイクを持ってきて黄色い衣装を着た女の子にコメントを貰いに行った。
 すると彼女はここぞとばかりにとんでもないことを口にしたのだ。

「ええと! 私狼騎士様のことが大大大好きなんです! だからお付き合いできたらいいなあって思ってるんです!!! 本気です! お願いします」

 祭りの喧騒がかき消されるほどの歓声がステージを取り囲んで起った。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

真柴さんちの野菜は美味い

晦リリ
BL
運命のつがいを探しながら、相手を渡り歩くような夜を繰り返している実業家、阿賀野(α)は野菜を食べない主義。 そんななか、彼が見つけた運命のつがいは人里離れた山奥でひっそりと野菜農家を営む真柴(Ω)だった。 オメガなのだからすぐにアルファに屈すると思うも、人嫌いで会話にすら応じてくれない真柴を落とすべく山奥に通い詰めるが、やがて阿賀野は彼が人嫌いになった理由を知るようになる。 ※一話目のみ、攻めと女性の関係をにおわせる描写があります。 ※2019年に前後編が完結した創作同人誌からの再録です。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

こじらせΩのふつうの婚活

深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。 彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。 しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。 裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。

処理中です...