仔犬のキス 狼の口付け ~遅発性オメガは義弟に執心される~

天埜鳩愛

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黒猫王子は狼騎士に溺愛される🎃(ハッピーハロウィン)

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 「は、離れてないし」
 
 しかし目の前の男のあまりの麗しさに、思わずこぶしを握って口元にやる。そうしていないと感嘆のため息を漏らしてしまいそうだ。柚希は目をまん丸に見開くと、弟の艶姿に興奮を隠せなくなってしまった。

(うわああ。和哉、似合い過ぎる。狼騎士様そのもの!!)

 近くで見ると、柚希同様若干メイクも施されているから、余計に別人のようにも見える。
柚希を『我が君』などと呼んだのは、柚希が扮するキャラクター『黒猫王子』に仕える『狼騎士』に扮した弟の和哉だった。

 肩を越した長さの暗い銀髪に、同じ色のぴんっと立ち上がった大きな耳。
 青い瞳に光沢ある黒いマント。その内側も青だ。銀色の西洋風甲冑の姿だが、それは絶妙にお洒落にアレンジされていて、肩あてと胸あてまでは甲冑姿で、下に着ているチュニック状の青い上着には狼の文様。ズボンは黒でそこにはベルトで剣が下がっている。黒猫王子と同じくふっさりとした尻尾はあるが、こちらはマントが長いためぶら下がっている状態だ。

「ご機嫌はいかがですか?」
「げ、元気だよ」

 ふっと微笑む余裕の表情は凛々しくもあり、見とれている柚希の手を握ると、和哉は気障な様子で白い手の甲にさらりと口づけを落とす。ふわっと甘い感触に柚希の顔は本物の方の耳まで赤くなった。

(ひゃあああ、カズ、公衆の面前で何してくれるんだ!)

 手を握ったまま端整な顔が上目遣いに「にこっ」なんてキラースマイルすぎる。
 柚希以外にも和哉に撃ち落された人々から、周りで黄色い歓声が上がる。二人にレンズが一斉に向けられたから柚希はますます顔を赤くしてしまった。
 流石の再現度というか、そもそも彫が深く鼻筋が通って見目麗しい和哉がこんな格好をすると、本物の騎士様みたいに見えてくる。柚希は猫耳をぴくぴくいわせる勢いで心の中で大興奮していた。

(はあ、無茶苦茶カッコいい! 俺もあっち側で一緒になって『カッコいい』って騒ぎたい)
「和が君。お手伝いいたしましょう」

 そう呟くと和哉こと狼騎士はお菓子の籠を手にして、並んでいた5人ほどの子供たちに景品のお菓子を次々に手渡していく。

「狼騎士様~!」

 騎士様は男の子にも大人気だ。出店で売っている小さな玩具の剣を振りかざしてアピールする子には、自分も剣をぬいてにこにこと挨拶してあげている。母親たちも騎士と我が子の姿を写真にとりながらどちらにも夢中で、喜色満面といった様子を見せる。
 たまに柚希の方を向いて笑いかけてくれる様は秋の蒼天に似合う爽やかさで、思わず柚希も目を奪われてきゅんっとしてしまうほどの色男ぶりだ。

(俺の番、恰好良すぎるだろ!!)
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