仔犬のキス 狼の口付け ~遅発性オメガは義弟に執心される~

天埜鳩愛

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黒猫王子は狼騎士に溺愛される🎃(ハッピーハロウィン)

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 柚希と和哉が番になったのはつい先日のことだ。ドーナツ店と仲の良い店舗の人や和哉が個人的に付き合いがある人には知られていたようだが、青年会全体が知っているわけではないのだ。特に若旦那はこの商店街以外にも店舗を構えているので、いつもいつも会合に出席しているわけでもないから、無理からぬことだろう。
 若旦那がたまたま晶のことを知っているのは、二人で彼の店の立ち飲みスペースを何度か訪れる機会があったからだ。
 番ができたことを隠しているつもりもないし、別に若旦那から咎められたわけではない。だが晶の存在を知っている人からそんな風に確認されると、まだ柚希の中にある罪の意識が刃となって胸をじくりと刺す。

「……いえ、違います」
「そうなんだ。そうか。違うんならいいんだ。彼氏さんとは別れてないんだ?」
「違うって、そういう意味じゃなくて、……晶とは別れました」
「え、あの男前と分かれたの? 本当に? そっか、そうなのか」
 
 急に嬉しそうな声を上げた若旦那は柚希の腕を掴んでいた手を緩めると、するりと手首の辺りを指先で撫ぜ上げた。
 ぞわっとして柚希が籠ごと腕を引っ込めると、彼は気まずそうな笑みを浮かべてからぼそりと喋る。

「ごめん。彼氏さんと別れたとか聞いて、テンションが上がっちゃった。俺さ、ずっと一ノ瀬君狙いだったから」
「え……?」
「俺にチャンスをくれないかな?」

 何がどんな拍子にそうなったのか、とんでもなく大きな誤解を与えてしまったと気がつく。柚希が焦って急に立ち上がった拍子にぼたりぼたりとお菓子が籠から落ちた。

「我が君。お菓子の列が伸びておりますよ」

 すると追い打ちをかけるように、後ろから聞きなれた声がして、それがぞっとするほどの冷たい声色であることに、柚希は恐る恐る後ろを振り返った。
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