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黒猫王子は狼騎士に溺愛される🎃(ハッピーハロウィン)
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柚希はこれほど恥ずかしがるのにはわけがある。
実は今、今年のハロウィンのイメージキャラクターである『黒猫王子様』というイメージキャラクターの仮装を着させられているのだ。
もちろん、柚希にとって仮装もコスプレも人生初の試み。高校時代、文化祭の時に悪乗りで女子の制服を着せられたことはあったがそれ以来のことだろう。あまりに本格的な仕上がりに某遊園地のキャストにでもなったような心地だが、役に入り込んで注目を集めるのが大好き、という性分でもないのでひたすら顔がかっかと熱くなる。
「黒猫王子様、一緒に写真撮っていただけますか?」
景品交換所のお隣のスペースの一角には、バルーンアートで作られたフォトスポットがある。
色鮮やかなジャックオーランタンや憎めない顔のお化け、蝙蝠なんかが黒い幕を背景に設置されていて、コミカルな雰囲気で手作り感満載だ。
(この姿であと何回写真に映ればいいんだろ。とほほ。よそ様のスマホの中に俺の写真があるなんて恥ずかしすぎる、いたたまれない)
女の子は柚希の掌に小さな手を滑り込ませてきた。ぷくぷくほっぺが綻んでいて、ご機嫌の女の子をむげには出来ない。
(ちっちゃい子の夢を壊さないようにしないと。黒猫王子は誰にでも優しい王子様。笑顔、笑顔。ひたすら笑顔)
柚希は母子の求めに応じて写真コーナーに移動すると、母子だけでない、周りにいる人々から一斉にスマホのカメラを向けられた。連射の音に驚いた顔で映っていたらどれだけ間抜けなことだろう。
「わああ! 黒猫王子!! こっちむいて~」
内心は逃げ出したくてたまらないが、女の子は小さな手で柚希の手を一生懸命握ってくれる。ゆらゆら身体を揺らし、心底写真を撮るのを嬉しそうにしてくれる。内心今すぐこの場から逃げ出したいが、期待は裏切れない。
「はーい。こっち見てください」
笑顔の母親に促され、柚希は顔を真っ赤にして何とか笑顔を作った。
(うう、いい年してこの恰好……、恥ずかしすぎる。なんで俺が王子様、しかも猫耳。和哉~。代わってくれ~)
もちろん柚希以外の商店街の大人たちも張り切って仮装して、お祭りを盛り上げている。
年に一度は大人も真剣に仮装して、子供たちに非日常のドキドキわくわくを提供する。大人も共に実りの秋の一日を笑顔で楽しむ。学生時代の文化祭のノリに近いだろう。
そもそもこの商店街は『不思議の国のアリス』をイメージモチーフにしている。
アリスとその仲間たちの商店街オリジナルイラストを手掛けてくれているのが、人気のイラストレーターであり、近隣に住んでいる南アコさんだ。
今回、ハロウィン関連で書き下ろした商店街オリジナルキャラクターが『黒猫王子と狼の騎士』だった。
架空の王国に住まう、幼馴染の美形の主従コンビ。
彼らのイメージイラストやサイトにアップされたショートストーリーが、お祭り前から商店街のサイトやSNSで人気を博していた。
その人気にあやかり今年のハロウィンイベントからポスターや絵葉書がお目見えすることになった。商店街の店舗では関連のグッズも売り出し、柚希のドーナツ店でも小さな王冠が載った黒猫ドーナツと、銀色狼を模した黒ゴマグレーズのドーナツを売り出した。猫と狼セットで売れに売れて、お祭り期間の二日分すでに完売している。
商店街のお祭り実行委員のメンバーに腕利きのコスプレイヤーさんがいて、せっかくならばキャラクターの扮装をした人をお祭りでお披露目したいというアイディアが出された。
そこでキャラクターの黒猫王子役に白羽の矢が立ったのが、ドーナツ屋で製造部門に勤務する柚希だった。
実は今、今年のハロウィンのイメージキャラクターである『黒猫王子様』というイメージキャラクターの仮装を着させられているのだ。
もちろん、柚希にとって仮装もコスプレも人生初の試み。高校時代、文化祭の時に悪乗りで女子の制服を着せられたことはあったがそれ以来のことだろう。あまりに本格的な仕上がりに某遊園地のキャストにでもなったような心地だが、役に入り込んで注目を集めるのが大好き、という性分でもないのでひたすら顔がかっかと熱くなる。
「黒猫王子様、一緒に写真撮っていただけますか?」
景品交換所のお隣のスペースの一角には、バルーンアートで作られたフォトスポットがある。
色鮮やかなジャックオーランタンや憎めない顔のお化け、蝙蝠なんかが黒い幕を背景に設置されていて、コミカルな雰囲気で手作り感満載だ。
(この姿であと何回写真に映ればいいんだろ。とほほ。よそ様のスマホの中に俺の写真があるなんて恥ずかしすぎる、いたたまれない)
女の子は柚希の掌に小さな手を滑り込ませてきた。ぷくぷくほっぺが綻んでいて、ご機嫌の女の子をむげには出来ない。
(ちっちゃい子の夢を壊さないようにしないと。黒猫王子は誰にでも優しい王子様。笑顔、笑顔。ひたすら笑顔)
柚希は母子の求めに応じて写真コーナーに移動すると、母子だけでない、周りにいる人々から一斉にスマホのカメラを向けられた。連射の音に驚いた顔で映っていたらどれだけ間抜けなことだろう。
「わああ! 黒猫王子!! こっちむいて~」
内心は逃げ出したくてたまらないが、女の子は小さな手で柚希の手を一生懸命握ってくれる。ゆらゆら身体を揺らし、心底写真を撮るのを嬉しそうにしてくれる。内心今すぐこの場から逃げ出したいが、期待は裏切れない。
「はーい。こっち見てください」
笑顔の母親に促され、柚希は顔を真っ赤にして何とか笑顔を作った。
(うう、いい年してこの恰好……、恥ずかしすぎる。なんで俺が王子様、しかも猫耳。和哉~。代わってくれ~)
もちろん柚希以外の商店街の大人たちも張り切って仮装して、お祭りを盛り上げている。
年に一度は大人も真剣に仮装して、子供たちに非日常のドキドキわくわくを提供する。大人も共に実りの秋の一日を笑顔で楽しむ。学生時代の文化祭のノリに近いだろう。
そもそもこの商店街は『不思議の国のアリス』をイメージモチーフにしている。
アリスとその仲間たちの商店街オリジナルイラストを手掛けてくれているのが、人気のイラストレーターであり、近隣に住んでいる南アコさんだ。
今回、ハロウィン関連で書き下ろした商店街オリジナルキャラクターが『黒猫王子と狼の騎士』だった。
架空の王国に住まう、幼馴染の美形の主従コンビ。
彼らのイメージイラストやサイトにアップされたショートストーリーが、お祭り前から商店街のサイトやSNSで人気を博していた。
その人気にあやかり今年のハロウィンイベントからポスターや絵葉書がお目見えすることになった。商店街の店舗では関連のグッズも売り出し、柚希のドーナツ店でも小さな王冠が載った黒猫ドーナツと、銀色狼を模した黒ゴマグレーズのドーナツを売り出した。猫と狼セットで売れに売れて、お祭り期間の二日分すでに完売している。
商店街のお祭り実行委員のメンバーに腕利きのコスプレイヤーさんがいて、せっかくならばキャラクターの扮装をした人をお祭りでお披露目したいというアイディアが出された。
そこでキャラクターの黒猫王子役に白羽の矢が立ったのが、ドーナツ屋で製造部門に勤務する柚希だった。
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