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優しさで貴方を奪う
最終章 優しさで貴方を奪う7
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再びがばっと顔を上げた柚希の瞳から大粒の涙がぴゅっと飛び出してそのあとはもう決壊した涙の堤防は次から次にぼたぼたと零れて落ちる。
「うっ……」
「だからさ、柚希。僕だってさ、僕より柚希に絶対に先に死んでほしくないけど、そこは譲る。愛してるから。僕は一日でも一秒でも柚希より長生きするね? 絶対に兄さんのこと、僕が看取ってあげる。だから安心して? 僕を番に選んだこと、後悔させないから。これから絶対に不慮の事故には気を付けて生きる。危険そうな所には近寄らないし、健康第一。それでも僕が病気にかかったり大けがして兄さんより死ななきゃならなくなったら……」
「……」
そんなこと考えただけでも哀しくて、番になってからはより和哉との絆を深く感じる心と身体のそのどちらもが震える。
「どうにかして兄さんのことも、一緒に死ねるようにしてあげる。絶対する。何が何でも、兄さんだけおいてはいかない。それでいいよね? それならもう怖くないよね?」
重く狂おしい弟の執着は今なお続いているというか、むしろ番になって増しに増したというか。
「ぎゃ、逆に怖いっ……。お前、怖すぎる」
「ねえ知ってた? 狼の番は一生同じ相手と連れ添うんだよ? 相手に死なれたら後追いすることもあるんだって」
いいしな和哉は指の長い掌で柚希の首を正面から顎ごと自然に掴み上げると、きゅっと力を込める。柚希は瞬間息をつめ、そして逃げることも叶わず双眸を見開いた。
「綺麗な目」
和哉は顔を傾け、キスするような仕草をみせつけながら、急に柚希の綺麗な鼻筋にガブっと噛みついて和哉は微笑んだ。
「いてっ!」
「狼だって自分の死期を悟れたら……。番を道づれにするかな?」
和哉は車を先に降りてわざわざ柚希の側までまわって、扉を開けてまだ降りてこない柚希に掌を差し出してきた。
「いこうよ?」
激しい執心を再び人懐っこい笑顔に包みこんだ和哉の手を、柚希は迷わずしっかりとつかんで立ちあがった。
ひざ掛けを掴んでシートに放り投げると、その勢いで弟の大きな掌を頼もしく思いながら、長く太い指の間に自分の指を滑り込ませてしっかりと繋いだ。
そして実家に向けて自分が先を先導する様に足早に歩き出す。
日は完全に傾いて、赤々と燃える太陽の横からの日差しが兄のシルエットを黒くはっきりと浮かび上がらせる。色素の薄い瞳を細めた和哉は、ぐいぐいとひっぱる和哉の手を引っ張って歩く兄の姿に、あの日自分を孤独から連れ出してくれた少年の日の幻影を見て、愛おしさと切なさに胸が痛んだ。
「カズ!」
「うん」
「なるべく痛くなく、頼むな? 俺、痛いの苦手だから」
「……兄さん」
振り返った兄の顔は、逆光で分かりにくかったが多分明るい笑顔だったと和哉は信じている。
家の手前にある角を曲がったら、少し寒そうに自らの二の腕を摩る桃乃と、上着をもって後ろから駆けつけてきた敦哉の姿が目に飛び込んできた。和哉は何故だか胸にこみあげるものがあるのを抑えきれず、涙を零さぬ代わりに兄としっかり繋いだその手を二人から良く見えるように、高く高く上に掲げて大声で叫んだ。
「母さん! 父さん! 柚にい帰ってきたよ!」
終
「うっ……」
「だからさ、柚希。僕だってさ、僕より柚希に絶対に先に死んでほしくないけど、そこは譲る。愛してるから。僕は一日でも一秒でも柚希より長生きするね? 絶対に兄さんのこと、僕が看取ってあげる。だから安心して? 僕を番に選んだこと、後悔させないから。これから絶対に不慮の事故には気を付けて生きる。危険そうな所には近寄らないし、健康第一。それでも僕が病気にかかったり大けがして兄さんより死ななきゃならなくなったら……」
「……」
そんなこと考えただけでも哀しくて、番になってからはより和哉との絆を深く感じる心と身体のそのどちらもが震える。
「どうにかして兄さんのことも、一緒に死ねるようにしてあげる。絶対する。何が何でも、兄さんだけおいてはいかない。それでいいよね? それならもう怖くないよね?」
重く狂おしい弟の執着は今なお続いているというか、むしろ番になって増しに増したというか。
「ぎゃ、逆に怖いっ……。お前、怖すぎる」
「ねえ知ってた? 狼の番は一生同じ相手と連れ添うんだよ? 相手に死なれたら後追いすることもあるんだって」
いいしな和哉は指の長い掌で柚希の首を正面から顎ごと自然に掴み上げると、きゅっと力を込める。柚希は瞬間息をつめ、そして逃げることも叶わず双眸を見開いた。
「綺麗な目」
和哉は顔を傾け、キスするような仕草をみせつけながら、急に柚希の綺麗な鼻筋にガブっと噛みついて和哉は微笑んだ。
「いてっ!」
「狼だって自分の死期を悟れたら……。番を道づれにするかな?」
和哉は車を先に降りてわざわざ柚希の側までまわって、扉を開けてまだ降りてこない柚希に掌を差し出してきた。
「いこうよ?」
激しい執心を再び人懐っこい笑顔に包みこんだ和哉の手を、柚希は迷わずしっかりとつかんで立ちあがった。
ひざ掛けを掴んでシートに放り投げると、その勢いで弟の大きな掌を頼もしく思いながら、長く太い指の間に自分の指を滑り込ませてしっかりと繋いだ。
そして実家に向けて自分が先を先導する様に足早に歩き出す。
日は完全に傾いて、赤々と燃える太陽の横からの日差しが兄のシルエットを黒くはっきりと浮かび上がらせる。色素の薄い瞳を細めた和哉は、ぐいぐいとひっぱる和哉の手を引っ張って歩く兄の姿に、あの日自分を孤独から連れ出してくれた少年の日の幻影を見て、愛おしさと切なさに胸が痛んだ。
「カズ!」
「うん」
「なるべく痛くなく、頼むな? 俺、痛いの苦手だから」
「……兄さん」
振り返った兄の顔は、逆光で分かりにくかったが多分明るい笑顔だったと和哉は信じている。
家の手前にある角を曲がったら、少し寒そうに自らの二の腕を摩る桃乃と、上着をもって後ろから駆けつけてきた敦哉の姿が目に飛び込んできた。和哉は何故だか胸にこみあげるものがあるのを抑えきれず、涙を零さぬ代わりに兄としっかり繋いだその手を二人から良く見えるように、高く高く上に掲げて大声で叫んだ。
「母さん! 父さん! 柚にい帰ってきたよ!」
終
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