仔犬のキス 狼の口付け ~遅発性オメガは義弟に執心される~

天埜鳩愛

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ズルくて愛しい、僕の番

狡くて愛しい、僕の番1

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 昨日からずっと傍にいたのに、柚希はやっと心の底から正面をきって和哉に向き直り、色っぽく吐息をほうっと一度だけつく。そして未だ涙を湛えた大きな瞳を眩しい陽光にやや目を細めながらも、ひたっと向けてきた。

「カズ……こんな俺のことをずっと慕い続けてくれて、ありがとう。それでもさ……。お前には世界で一番幸せになって欲しいっていう気持ちは今も変わらないし、正直俺がお前のことを誰よりも幸せにしてあげられるか、今のところ自信がない。それでもお前が望んでくれるなら、俺を……。和哉の……、つ、番にしてください」
 
(しまらないし、そして相変わらず煮え切らないけど)

 終始受け身の人生に徹してきた柚希にしては頑張ったであろう告白に、和哉は内心熱い思いが溢れて顔がどうしても締まりなく微笑みそうになるのをなんとか抑えて、恰好をつけながら兄の頭をさらっと撫ぜた。

「上出来」

 端的に呟いたのち、和哉は一度寝台を元気よく飛び降りて離れ、どんどんと昇る太陽が黄色い光を放つ窓辺に立ってカーテンをぴしゃっと閉め切り、途端にまた夜の続きのような仄暗い空間に戻す。
 柚希は真っ赤な顔ではあはあと乱れた吐息をついて、和哉が離れたこの機を逃さず上掛けを引き寄せひっかぶり、あちこち反応する身体を隠そうと画策した。
 和哉はバスローブを豪快に脱ぎ捨てると、中学生ぐらいの和哉の裸体しか凝視したことのない柚希が目にしたら、腰が引けて逃げ出すような大ぶりな自らを隠そうともしないで仁王立ちした。そしてまたしても無駄な抵抗を試みる柚希に片眉をつり上げた。

「柚希!」
「じゃあ、そういうことで……。一回、寝る。気持ちの整理を……」
「往生際、わるっ!!」

 上掛けの下からもごもごとした声が聞こえてきたので呆れつつも、もう逃げ場はないぞと琥珀色の双眸を見開いた。

「うぐっ、だって恥ずかしいだろ。ちっちゃい頃から裸を見慣れたようなお前と、今さらこんな、急に……」

 そんな言い訳をごにょごにょとしたが、昨日から何度も成長した弟の逞しくも麗しい姿に見惚れていたなど口が裂けても言えなかった。

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