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狼に口づけを
狼に口づけを11
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どちらを選ぶかは柚希の想いを尊重しようと、最後の最後で和哉は腹を括ったのだ。
昨日は柚希にヒートを一時的に弱める注射薬を投入後は晶と共に強い抑制剤を服用していたから、和哉は副作用の頭痛の強い波に何度か襲われていた。しかしどうしても眠るのが惜しくて一晩中、飽かずに柚希の寝顔を見つめていた。
昔のように添い寝して傍らで過ごせば、時折苦し気に呻く兄を抱きしめてやると呼吸が整い、和哉の頭痛も遠のいて、不思議と穏やかな気持ちになれた。兄の女性ほど柔らかくはないが自分とは違い嫋やかさをはらむ白い身体に口づけ、この時がずっと続けばいいとすら思った。
空調が静かな二人きりのホテルの一室。見下ろせば星々には劣るが輝くビル群の夜景が見える。ふと見渡せるだけでも沢山の人が息づき暮らしているというのに、どうして和哉には柚希でないとならないのか。
結局どうして柚希でないと駄目なのかなんて考えても答えはでないだろう。
ただもう、和哉にとって柚希を愛している気持ちだけが、幼いころから何度も何度もぴかぴかに拭き上げた、たった一つの宝物なのだから。
手放すには愛着が湧き過ぎて、そのあと自分がどうなってしまうのか和哉自身も分からない。
「柚希……。答えて」
温かいというよりも内側に炎が赤々と燃えているように熱い兄の身体を今一度強く抱きしめた。
いつまでもこうしていたいけれど、ついにこの時が来てしまった。
和哉は爪を立て痛い程腕を掴んでくる兄の指先を後ろから掌に包んで、やわやわと揉み摩る。徐々にほろりと力を抜いたその白い手を持ち上げ、和哉は初めてであった頃から特別なその手を自分の頬に充てて温みを味わった。
(もう二度と、この手に触れられなくなるかもしれない。それでも……)
「和哉?」
「どちらを選んでもいいよ。覚悟してる。でも。もしも先輩を選ぶなら……。僕は柚希の前から永遠に、去ろうと思ってる」
「カズ……!」
心の底から欲し、共に生きていくことを望んだ最愛の人をもう一度『兄』と呼び、純粋に慕うことはできないだろう。
永遠に、去る。それだけは嘘偽りない、覚悟を決めた言葉だった。
柚希を得ることができぬのならば、今までしてきた努力も思いも水泡とかす。他の男のものになる柚希をこのまま近くで見守ることができる程、和哉は老成してはいなかったから、和哉はその我儘だけは自分に許そうと思った。
「ずっと柚希を護ってあげるって言った約束、破ってしまうけど……。ごめんね。兄さん」
昨日は柚希にヒートを一時的に弱める注射薬を投入後は晶と共に強い抑制剤を服用していたから、和哉は副作用の頭痛の強い波に何度か襲われていた。しかしどうしても眠るのが惜しくて一晩中、飽かずに柚希の寝顔を見つめていた。
昔のように添い寝して傍らで過ごせば、時折苦し気に呻く兄を抱きしめてやると呼吸が整い、和哉の頭痛も遠のいて、不思議と穏やかな気持ちになれた。兄の女性ほど柔らかくはないが自分とは違い嫋やかさをはらむ白い身体に口づけ、この時がずっと続けばいいとすら思った。
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ただもう、和哉にとって柚希を愛している気持ちだけが、幼いころから何度も何度もぴかぴかに拭き上げた、たった一つの宝物なのだから。
手放すには愛着が湧き過ぎて、そのあと自分がどうなってしまうのか和哉自身も分からない。
「柚希……。答えて」
温かいというよりも内側に炎が赤々と燃えているように熱い兄の身体を今一度強く抱きしめた。
いつまでもこうしていたいけれど、ついにこの時が来てしまった。
和哉は爪を立て痛い程腕を掴んでくる兄の指先を後ろから掌に包んで、やわやわと揉み摩る。徐々にほろりと力を抜いたその白い手を持ち上げ、和哉は初めてであった頃から特別なその手を自分の頬に充てて温みを味わった。
(もう二度と、この手に触れられなくなるかもしれない。それでも……)
「和哉?」
「どちらを選んでもいいよ。覚悟してる。でも。もしも先輩を選ぶなら……。僕は柚希の前から永遠に、去ろうと思ってる」
「カズ……!」
心の底から欲し、共に生きていくことを望んだ最愛の人をもう一度『兄』と呼び、純粋に慕うことはできないだろう。
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「ずっと柚希を護ってあげるって言った約束、破ってしまうけど……。ごめんね。兄さん」
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