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狼に口づけを

狼に口づけを9

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「それが何? だから言ったじゃないか。僕はずっと、君を狙う狼だったんだよ。忘れちゃった柚希が悪いんだ。この十年、君がずっと他の誰かに目を向けるのをどんな気持ちで僕が見てきたと思う? 諦めようとしたこともあった。弟として君を支えてあげればいいって何度も、何度も君を……。手放そうと」

 柚希は振り返らず、画面に共に映っている辛そうな和哉の瞳に光るものを見つけた気がして胸が苦しく締め付けられた。

「柚希。君はいつだってワンコの餌じゃ満足できない僕の欲を煽って、無邪気に僕の愛情を乞うんだ。与えても与えても、最後のご馳走はよこしてくれない。晶先輩にだってそうでしょう? ひどいのはどっちだよ。俺たちを弄んで……。清らかな顔をして、人の人生を狂わせてる」
「……そんな」

 柚希は愛する弟からのひどい詰りに言葉を失って、ずるずると背中を預けた和哉の胸板からずり落ちていく。そんな柚希の白い胸に太く筋肉の筋の浮いた腕を回して和哉は抱えなおして愛おしげに頬ずりをする。

「……でも僕はいいんだ。柚希にずっと狂っていたいから。だから片思い・・・を拗らせてる晶先輩のことはそろそろ開放してあげなよ。柚希の恋の奴隷は僕だけで充分だろ?」
『和哉、言い過ぎだ。まだ柚希はお前のものじゃないだろ? それに俺の柚希への気持ちは変わらない。お前にも負けない。柚希。和哉はさっき、もう一つの俺との約束を破った。だからこうして声をかけたんだ。和哉がきちんと眠るお前を発情させて噛みつくことはしないと約束を守っていたから。目覚めるまでそちらに行かずにここで待っていた』
「晶……近くにいるの? 仕事は?」
『仕事なんて、行ってられるか』

 荒くそう言い捨てると、憔悴の色が濃い晶は画面のからじっと強い眼差しで柚希を見つめてきた。

「しょう……」

『今、お前たちと同じホテルの中にいる。柚希。お前はまだ和哉の番じゃない。だから何も気にするな。……柚希、愛してる。迎えに行くから、俺を選んでくれ』

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