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狼に口づけを
狼に口づけを8
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『柚希。体調は大丈夫か?』
この期に及んでも晶は窶れ翳りの或る表情に僅かに微笑みを浮かべ、画面越しに柚希を気遣ってきた。
「大丈夫だよ……。少しだけ頭、ぼーっとして痛いけど。晶……どうして?」
柚希にとって想像もつかなかった異常な事態だ。
すべての疑問をひっくるめたどうして以外には、柚希は声すら上擦り、旨く言葉を紡げなかった。
「柚希が昨日意識を失ってから、ずっと先輩とスマホを繋ぎっぱなしにしてたんだよ? 目覚めるまではこっちに来ない約束だったのに、僕のキスで可愛い声を上げる柚希に堪らなくなって、なんどかこっちの部屋にきそうになったよね?」
「悪趣味極まりなかったな。お前がそんな奴だったとは心底失望した」
「あんな風に僕の隣で安心しきった顔で眠ってる可愛い柚希を前にしたら、指一本も触れないなんてとても無理だね。正々堂々と勝負するなんて僕に格好をつけてさ? 結局こんなタイミングで連絡とってきた。どっちが悪趣味?」
恋敵に向ける態度は互いに辛辣で、そこにはかつて先輩後輩として互いに敬意を払い共にコートを駆けた輝かしい姿は消え失せているかのように見えた。
柚希がみるみる顔色を失っていくのは憐れだったが、お互いに激しくぶつかり今この局面に火花を散らさねば、柚希に迷いを捨てさせどちらか一方を選ばせねば先に進めないと二人は覚悟の上だった。
恋人と弟。かつてのチームメイト同士の二人が柚希を挟んで言い争う。
始まった応酬に血の気が引いてきた柚希は暴れて身を離そうとするが、和哉の腕は鉄の錠のように硬く外れる気配がない。
「……なんだよ。なんなんだよ、それ」
晶をまた煽るように柚希の真珠のように輝く白い首筋に舌を這わせた和哉に、柚希は怒りをあらわにして顔を押しのけようとするが、和哉はそれを許さず逆に顎を掴んで無理やりに柚希に晶に見せつけるように唇に舌を這わせ、官能を呼び起こすエロティックな口づけをした。
目の端でスマホを追うと、目も背けずに晶がこちらを見つめてくるからいたたまれずに柚希は拳で和哉の胸を打つ。
「んっ!!! やめろ! こんな、ひどいっ……。 晶が見てる! 」
この期に及んでも晶は窶れ翳りの或る表情に僅かに微笑みを浮かべ、画面越しに柚希を気遣ってきた。
「大丈夫だよ……。少しだけ頭、ぼーっとして痛いけど。晶……どうして?」
柚希にとって想像もつかなかった異常な事態だ。
すべての疑問をひっくるめたどうして以外には、柚希は声すら上擦り、旨く言葉を紡げなかった。
「柚希が昨日意識を失ってから、ずっと先輩とスマホを繋ぎっぱなしにしてたんだよ? 目覚めるまではこっちに来ない約束だったのに、僕のキスで可愛い声を上げる柚希に堪らなくなって、なんどかこっちの部屋にきそうになったよね?」
「悪趣味極まりなかったな。お前がそんな奴だったとは心底失望した」
「あんな風に僕の隣で安心しきった顔で眠ってる可愛い柚希を前にしたら、指一本も触れないなんてとても無理だね。正々堂々と勝負するなんて僕に格好をつけてさ? 結局こんなタイミングで連絡とってきた。どっちが悪趣味?」
恋敵に向ける態度は互いに辛辣で、そこにはかつて先輩後輩として互いに敬意を払い共にコートを駆けた輝かしい姿は消え失せているかのように見えた。
柚希がみるみる顔色を失っていくのは憐れだったが、お互いに激しくぶつかり今この局面に火花を散らさねば、柚希に迷いを捨てさせどちらか一方を選ばせねば先に進めないと二人は覚悟の上だった。
恋人と弟。かつてのチームメイト同士の二人が柚希を挟んで言い争う。
始まった応酬に血の気が引いてきた柚希は暴れて身を離そうとするが、和哉の腕は鉄の錠のように硬く外れる気配がない。
「……なんだよ。なんなんだよ、それ」
晶をまた煽るように柚希の真珠のように輝く白い首筋に舌を這わせた和哉に、柚希は怒りをあらわにして顔を押しのけようとするが、和哉はそれを許さず逆に顎を掴んで無理やりに柚希に晶に見せつけるように唇に舌を這わせ、官能を呼び起こすエロティックな口づけをした。
目の端でスマホを追うと、目も背けずに晶がこちらを見つめてくるからいたたまれずに柚希は拳で和哉の胸を打つ。
「んっ!!! やめろ! こんな、ひどいっ……。 晶が見てる! 」
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