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狼に口づけを

狼に口づけを5

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 和哉がその時見せた顔は、であったばかりの頃に見せたそれに似ていた。愛する人を失って途方に暮れて、自分ではどうすることもできない運命に絶望して、それでもどうにか生きていこうとしていた、あの頃のそれに酷似している。
 
 少し間が開いて、和哉は柚希の元に跪いて、海外の男性がプロポーズをする時のような体勢になると、長い腕を伸ばして柚希のぱたりと布団の上に垂れていた手を両手でとって下から包み込み、ぎゅっと握りしめた。
 敦哉よりもなお甘い甘い目元で柚希を見上げ、端正な口元を一度真一文字に引き絞り、その後すぐ決意したように開いた。

「『番になったんだよ』 僕とじゃ、いやだった?」
 
 普段の悪ふざけでじゃれ合う感じとは全く違う、真剣で少しだけ上擦ってすらいる声に柚希は切なさと深い情愛を呼び起こされた。
 少しだけ気恥しくなって、胸がとくとくた鼓動を早める。握られた大きな手の穏やかな温みとそれに反するような逃がすまいとする強い欲望の両方が伝わる。

「嫌かっていわれても……。だってもう俺たち番になったんだろ?」
 
 自分では見えないが項から伝わる痛みがシグナルを送る。それが動かぬ事実ならば、あとはもうそれを受け入れていくしかないのに。和哉は真剣な眼差しを反らさず、柚希に強請るというより懇願する。

「答えて。兄さんの気持ちが聞きたいんだ。お願い。今答えて」

 そもそも柚希は自分の欲求に触れにくい性格をしている。誰かが喜べば自分も嬉しいし、愛情も乞われれば自分なんかを好きになってくれてと誠実に対応してしまいたくなる。

(嬉しいかと言われたら……)

 複雑なこの心をどう伝えればいいのか分からず、柚希は口ごもり瞳を伏せると、和哉は答えを促すように片手を柚希の顎先にかけて目線を合わせてきた。

「どういわれたって、怒らないよ? 本当の気持ちを、言ってごらん。柚にいはどうしたかったの?」
「俺は……」

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