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狼に口づけを
狼に口づけを3
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額に手を当て髪を掻きむしる柚希から困惑と混乱を読み取った聡い弟は兄の傍らに寄り添うように近づいて、乱れた黒髪をいつも兄が自分にそうしてくれたようにしっとりと優しい手つきで撫ぜつけた。
「……まあある意味、僕はずっと。柚希に誘惑されつづけていたのかもな。この綺麗な髪も唇も身体も。こうして無防備に触れられる距離にいて、こっちは欲しくてたまらないのに噛み付くことが許されなくて。いつでも僕を飢えさせた」
やっぱり意識が混濁する前にΩのフェロモンで柚希が和哉のことを誘って関係を持ってしまったということだ。それも一度ならず二度もだ。
「ごめん……」
柚希は黒髪を再び乱し崩れるように項垂れた。
和哉は柚希たち母子の恩人である敦哉とって何より大切な亡き妻の忘れがたみであり、そして今では桃乃にとっても大事なもう一人の息子なのだ。
柚希だってこの世で一番大切に想う、一等幸せになって欲しい相手。
二度と失いたくない大事な家族にこんな形で仇を成してしまった。
(母さんや父さんと離れて……。この上和哉と離れるのが耐えられなくて……。俺が和哉を手離せなかったせいだ。あんな中途半端な場所に逃げこんで、あの時遠い街にでも越して、きちんと距離を取っていればこんなことにはならなかったのに)
涙が滲んで零れそうになるのを必死でこらえて下を向く。
「本当にすまない。でも最悪αは別に番も作れるし……、和哉は俺に縛り付けられなくても、いいよ?」。
「それこそ最悪だ! 柚希、僕のこと振り回すのはもうやめにしてくれ」
またも兄がとんでもないことを言い出したことに和哉に抱きしめられたまま、ぴしゃりと叱られ柚希が震えあがると、和哉もα性をもつものとしてΩに対してあらぬ態度をとったと必死に自分をこらえた。
しかしあまりに真っ正直で、かつあまりに無神経な兄に心底腹が立ったのだろう。背中を撫ぜる手つきはなんとか穏やかさを保とうとしつつも乱れる。
「……なあ、いいかげん分かってくれよ。僕は自分がαだってわかる前からずっと。ずっとだよ? 僕は柚希にだけ夢中なんだ」
「え……」
「柚希。初めて会った時、殆ど初対面だった僕にも親切で、家に連れて帰って怪我の手当てをしてくれたよね。その手つきがすごく丁寧で、温かくて、優しくて。僕のことを、とても大切な存在なんだって思わせてくれた。あの時にはもう僕は、この柔らかい手をこれから一生、ずっと握っていきたいって思ったんだ。僕は今も変わらず、柚希を世界で一番大好きなままだよ。柚希は違うの?」
「……まあある意味、僕はずっと。柚希に誘惑されつづけていたのかもな。この綺麗な髪も唇も身体も。こうして無防備に触れられる距離にいて、こっちは欲しくてたまらないのに噛み付くことが許されなくて。いつでも僕を飢えさせた」
やっぱり意識が混濁する前にΩのフェロモンで柚希が和哉のことを誘って関係を持ってしまったということだ。それも一度ならず二度もだ。
「ごめん……」
柚希は黒髪を再び乱し崩れるように項垂れた。
和哉は柚希たち母子の恩人である敦哉とって何より大切な亡き妻の忘れがたみであり、そして今では桃乃にとっても大事なもう一人の息子なのだ。
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涙が滲んで零れそうになるのを必死でこらえて下を向く。
「本当にすまない。でも最悪αは別に番も作れるし……、和哉は俺に縛り付けられなくても、いいよ?」。
「それこそ最悪だ! 柚希、僕のこと振り回すのはもうやめにしてくれ」
またも兄がとんでもないことを言い出したことに和哉に抱きしめられたまま、ぴしゃりと叱られ柚希が震えあがると、和哉もα性をもつものとしてΩに対してあらぬ態度をとったと必死に自分をこらえた。
しかしあまりに真っ正直で、かつあまりに無神経な兄に心底腹が立ったのだろう。背中を撫ぜる手つきはなんとか穏やかさを保とうとしつつも乱れる。
「……なあ、いいかげん分かってくれよ。僕は自分がαだってわかる前からずっと。ずっとだよ? 僕は柚希にだけ夢中なんだ」
「え……」
「柚希。初めて会った時、殆ど初対面だった僕にも親切で、家に連れて帰って怪我の手当てをしてくれたよね。その手つきがすごく丁寧で、温かくて、優しくて。僕のことを、とても大切な存在なんだって思わせてくれた。あの時にはもう僕は、この柔らかい手をこれから一生、ずっと握っていきたいって思ったんだ。僕は今も変わらず、柚希を世界で一番大好きなままだよ。柚希は違うの?」
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