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狼に口づけを

狼に口づけを2

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ごめんねと言いながらもまるで悪びれず、続く静かな口調は有無を言わせぬ迫力があり柚希は息苦しさを感じて胸に手を当て呻いた。

「どうして?」
「どうして、なんて、また・・残酷なことを聞くんだね。そんなのわかるでしょ?」
「……」
「分かるよね? 言ってよ。どうして僕がこんなことをしたのか、言って。柚希の口から聞きたいな?」

    あくまで柚希の口から言わせようと意地悪く囁く和哉は朝日にその美貌の端正さが際立ち、柚希ですら気後れしそうになる。

「……お、俺が和哉を無意識に誘ったから?」

 かすれ声で何とかそれだけ絞り出した柚希は、手の中でくしゃくしゃになるほど強く柔らかな寝具を掴んでそのままぎゅっと口も噤んだ。

 ガウンを身に着けたすらも姿も様になっている和哉はタオルを首にかけたまま、柚希の隣に再び腰をかけて柚希を強引に抱き寄せた。
裸のまま転がり込むように抱き寄せられた弟の胸は厚みがあって見た目よりずっと逞しい。その若い雄の魅力匂い立つ肉体に、なぜだか柚希は心臓が痛いほどに高鳴るのを止められない。
そのまま髪を撫ぜられるとぞくっとした心地よさとオスマンサスに似た甘い香りに包まれじわっと安寧が胸に広がってきた。

(和哉はαでもぜんぜんおかしくはない。成長したら敦哉さんに瓜二つになったし、大体こんなに完璧ないい男がどうしてβ?ってずっと俺だって疑問だったし。じゃあどうして黙ってたんだ。)

「カズ、お前さ!」

 俺を騙すような真似を……そう恨み言を言いかけて、すぐに思いなおす。

(いや違う。和哉は理由がなくて人を騙すようなことをするような子じゃない。きっと俺の為? ……俺の為だろうな。俺が怖がるから?)

 大方αである敦哉に乱暴されかけた柚希に、自分もα判定をされたとは言い出せなかったのだろう。
 今思えば出会ったころから非常に出来のいい弟が、わざと柚希の前では兄として彼をたてて弟っぽく振舞っていたのではないかとすら思う。
 それでもたまに気が抜けて無意識にあくびをしている時をちらっとみたら、気のせいか晶と似た感じの尖った犬歯があるように見えた。大人になったから以前みたいに和哉が大口を開けて笑わなくなったとは思っていたが、もしかしたらそのあたりも気を使ってくれていたのかもしれない。
   
(なのにきっと俺また……。敦哉さんの時みたいに和哉を誘ったんだ……。俺を心配して駆けつけてくれた弟に、俺……。なんてことを)

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