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狼に口づけを

狼に口づけを1

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浴室から出てきた人物は手早く純白のガウンを羽織ると、へたりと床に座りこんだままの柚希を軽々と抱き上げて寝室に戻っていった。
 都会の青いビル群と近くの公園の紅葉した木々が眼下に見渡せる大きな窓とその先の青い空を背にしたその人物は、まぎれもなく弟の和哉だった。

「柚希……。無理しちゃだめだよ? 身体がまだふらつくんじゃないの?」
「どうして……」

 和哉は目元で微笑んだまま、それには答えない。大切な宝物を扱うように寝台に下ろされ、和哉はベッドサイドに腰をかけてきっと茫然と間抜け面をしている柚希を覗き込んできた。
 柚にいと甘えたな声では呼ばずに柚希を呼び捨てにし、気遣うような少し揶揄うような声色は低くしっとりと耳に響く。もうあの幼いころから知っている和哉とは全く違う別の男のようだ。
 柚希の顔の側面を頬骨のあたりまでするりと指の背で撫ぜると、流れるような仕草で顎に手をかけ顔を傾け唇を合わそうとしてきた。

    そうは誤魔化されるかと柚希がその手を上から握って顔を背けたら、和哉はふっと微笑むとそれ以上はせずに立ちあがって片手で髪をごしごしと荒い手つきでタオルで乾かし始めた。

 そのまますたすたと広いベッドの隣にあるキャビネットの辺りに歩いていき、スマホを取り上げて時間を確認しているようだ。
 しかしすぐに柚希の方に向き直り、男っぽく欲を含んだ眼差しを白い柚希の艶美な肢体に注いできて、柚希は恥ずかしくなって乱れた布団を何とか引き上げ情事の痕の色濃い身体を隠してしまった。

「ねえ、なんで和哉がここにいるの?」
「覚えてない? 柚希が予約した部屋が急遽使えなくなってこの部屋にきたんだよ?」
「……だからって、どうして」
「この姿みたら……。想像つくでしょ?」

 耳まで顔をかあっと赤らめた柚希の反応を、和哉は心底可笑しそうに笑ったので柚希は不謹慎な弟を睨みつけた。

(俺がきっと和哉を誘ったんだ。でもどうして? 和哉はβじゃなかったのか?)

「……項、噛んだのお前? お前αだったのか?」
「噛んだよ。確かに僕はαだ。ずっと黙っててごめんね」
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