上 下
92 / 296
欲望の加速

欲望の加速11

しおりを挟む
 柚希を一瞬でも手に入れたような心地になり、あれほど手に入れたかった細くもしっかりとした骨格の悩ましい身体を揺さぶっている時、確かに兄との間に一体感を感じて頭の中は快感で満たされた気がした。
 しかし真新しい客用布団にいった夥しく放った精液と共に、夢見心地の気分まで全て霧散した。

(柚希、兄さん……。目を覚ませ。僕を見て)

 柚希は再び泥酔し、ぐちゃぐちゃになった互いの身体をどうにかせねばとおもい何度も自分に号令をかけたが、それでも和哉は柚希の身体を離すことができなかった。
 まんじりともせずに微睡んで……。白む朝を待たずに彼の身体を清めて洗濯物を出し、再び共に添い寝をして横になった。腕枕をしながら乱れた黒髪を優しく撫でつけると、胸に擦り寄ってくる。誰だと思ってしている仕草なのかを考えると空しくて……。
 和哉もひと時瞼を瞑ると、温かな身体をくっつけてねむっているというこの事実だけを幸せと思い込もうと柚希の身体をぎゅっと抱き寄せた。
 
 翌日は昼近くになってやっと目を覚まし、二日酔いで頭を押さえて呻く柚希を甲斐甲斐しく介抱して礼を言われ続けた。
 昨晩の熱く狂おしいやり取りを何も知らぬ柚希が哀れででも憎たらしくて、しかしすまなそうな顔で笑いかけてくれるのが誰より可愛くて。
 柚希を一時でも手に入れた気持ちになって愛情が全身から溢れ零れるようでも、この気持ちを今伝えるべきかを判断ができず。
 すべての感情が混ぜこぜの17歳の和哉はもう、このまま気持ちを抑えきれずに長きにわたる片思いを告白してしまおうと決心した。
 しかし柚希は再び忙しい毎日を過ごし、バイトも遅くまでしてから帰り、帰宅後はすぐに眠ってしまいと、7年越しの片思いを告白するには適当でない夜が続いた。

 愛する人に、一世一代の告白するならば、おざなりのそれでは嫌だった。

 柚希の時間がしっかりとれる日が良いと週末の柚希のバイトがない、二人で買い物に行くと決めていた日に、柚希が以前からいきたいといっていた古民家の甘味処でと狙いを定めた。
 次のお互いの休みには……と何べんも何べんも告白の言葉を考えていた平日。そうあの日から一週間待たずして、柚希は発情した。
 柚希はやはりΩであると宣告された現実を受け入れられないようだった。
 家族のいない隙に別に医師に『どうしたらβに戻れるのか?』と聞いて否定され、泣いて泣いて取り乱していたと医師から桃乃が聞かされた。

 そののちは落ち着いて、三日後色々な検査の結果退院することになった。柚希は柚希なりに沢山悩んであんなに大好きだった義父と物理的な距離をとるために家を出る決心を固めた。
 真面目で家族思いで地に足をつけた柚希らしい答えだったが、責任を感じていた敦哉は血相を変えてそれを止めた。
そんなことをする必要はない、今後は抑制剤をしっかり服用するし、ヒートの時には自分がホテル住まいに移ると敦哉が説得しても、母がそれならば昔と同じように二人でアパートに越しましょうと柚希に訴えても。外でオメガが一人で暮らすことの危険性をまざまざと和哉が説いても。

 いつもは和哉の言うことには素直に耳を傾けて我儘を聞いてくれる柚希なのに頑として譲らなかった。

「俺、こんな身体になっちまってごめんな?? みんなには迷惑をかけたくないし。俺ももう成人してるから一人暮らししてもおかしくないだろ? 環境を変えて一から出直すから、これから自分がこの身体で生きていくって自分でも納得できないと、とても前に進めそうにない……。」

 柚希は柔軟な考え方ができる人だから、わりとすぐに自分がΩであることをうけいれるのではないかと安易に考えていただ。それだけに柚希がΩとして変化したことの嬉しさに内心浮かれ切っていた和哉は、自分が巻き起こした事態に冷や水を浴びせかけられた心地になった。
 
(兄さんは僕が思っている以上に、βのままで居たかったんだ。僕が今まで兄さんにしたことをすべてを告白して僕がαだと知れたら……。兄さんはもう僕を弟としても愛してくれなくなる?)
 
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

真柴さんちの野菜は美味い

晦リリ
BL
運命のつがいを探しながら、相手を渡り歩くような夜を繰り返している実業家、阿賀野(α)は野菜を食べない主義。 そんななか、彼が見つけた運命のつがいは人里離れた山奥でひっそりと野菜農家を営む真柴(Ω)だった。 オメガなのだからすぐにアルファに屈すると思うも、人嫌いで会話にすら応じてくれない真柴を落とすべく山奥に通い詰めるが、やがて阿賀野は彼が人嫌いになった理由を知るようになる。 ※一話目のみ、攻めと女性の関係をにおわせる描写があります。 ※2019年に前後編が完結した創作同人誌からの再録です。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

こじらせΩのふつうの婚活

深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。 彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。 しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。 裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。

処理中です...