仔犬のキス 狼の口付け ~遅発性オメガは義弟に執心される~

天埜鳩愛

文字の大きさ
上 下
84 / 296
欲望の加速

欲望の加速3

しおりを挟む
和哉は幼くして出会った当初から自分がαで柚希がΩであると信じて疑わなかった。それで一度判定不明になった柚希と同じケースのことをあれこれと独自に調べたのだ。
 そういったケースの人間にはおおよそ成人するまでの間に揺らぎがあって、そのままβに落ち着くもの、αになるもの、βになるものがあり、調査によるとその時付き合っていた相手の性に合わせて落ち着くという結果もあったというのだ。
 なにぶんαとΩの人間は数が少なく戦後になってから研究がなされ始めた分野な上分母が小さすぎる研究であったので、半分は眉唾だと思ったが、和哉にとっては明るい兆しの見える内容だった。それに学生らしい気安さとポジティブさでそういう内容の文献ばかり読み漁った。

中学三年生の時、和哉は自費でこっそりバース検査を受けた。学生には決して安くはない金額だったが、どうしても翌年の無償期間を待てなかった。柚希に彼女ができ始め、焦っていたのかもしれない。自分がαであることの確証を得ることで、いつかは柚希の全てを自分のものにできると、そう信じるよすがにしたかったのかもしれない。
 その後、兄にも一緒に再検査を受けてもらいたかったが、口実が見つからない。
 何しろ当の柚希は自分がβだと信じて疑わなかったからだ。
 柚希のバスケットで鍛えた身体は、和哉より線は細めだが背丈もすらり高く、それなりにつくべきところには筋肉が綺麗についていた。
爽やかな見た目と朗らかな性格なので、よく女の子から告白されては能天気にありがたがって、よく相手のことも知りもしないうちにすぐに付き合っていた。
一緒に出掛けたり買い物に行ったりと友達でいいのでは? といった程度の交際を繰り返し、毎回いつかは本気になる相手に出会うかもしれないという焦れもあり、和哉はそれなりにヤキモキをさせられた。
和哉がどんな気持ちでいたのかなど、優しい兄はいつでも気ままでマイペースに楽しく生きていて知らなかったのだろう。
 だが柚希の彼女は大体、和哉のことを知るや否や蔭で和哉に連絡を取ってきたり、そうでない子も美形の和哉が優しくするとすぐに和哉の方に靡いてきたりして、その後適当にあしらうとまたどこかにいってしまった。
    その程度の思いで兄と付き合おうなどと軽く擦り寄ってくる少女たちを穢らわしくすら思い、しかし兄に告白する勇気をまだもてない自分にも嫌気がさした。

 出会いからもう十年経った。和哉は父と柚希の背丈を越え、父の出身校でもある難関大にも難なく合格した。
あと少しだと思った。春から社会人になった柚希に、男として誰にも押し負けぬ存在になり得たら告白しようと決めていた。
学生時代から勉強も部活もとにかく頑張って、大学進学もその先も、柚希を養っていけるようにと彼なりに考えて着々と準備をしてきた。
柚希は実父を亡くしてから母と二人、父の親族につらく当たられ苦労していた時期もある。見せないようにしているが、和哉は時折柚希が見せる寂しげな表情を傍で見て育った。

(兄さんを二度と寂しく哀しい思いをさせたくない。柚希の全てを埋める存在は、僕でないといけない。絶対に!)

 そんな和哉の決意などどこ吹く風、柚希は相変わらず来るもの拒まずで、児戯のような交際を繰り返す。そのたび和哉が暗躍して破局させてを繰り返す。しかし柚希をめぐるライバルは男も女もわんさかと多すぎて、柚希の前では変わらずににこにこしていても内心は苛立ちを募らせていた。

 そんな時相変わらず漁っていた判別不能者についての噂。ネットで流れてきたこれまた都市伝説に近い学説に興味を覚えた。
 α性を持つものがΩ性の因子を持っているβ性のあるものに性フェロモンで影響を与えながら、粘膜での接触を途切れなく続ければΩ性に傾いて発現が早まるというものがあった。
 あまりに淫靡なその一文が頭から離れず、それを言い訳にして、思春期を抜けきれぬまま拗らせた和哉は柚希へ告白できぬ鬱屈を晴らすことにしたのだ。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【Stay with me】 -義理の弟と恋愛なんて、無理なのに-

悠里
BL
高3の時、義理の弟に告白された。 拒否して、1人暮らしで逃げたのに。2年後、弟が現れて言ったのは「あれは勘違いだった。兄弟としてやり直したい」というセリフ。 逃げたのは、嫌いだったからじゃない。ただどうしても受け入れられなかっただけ。  兄弟に戻るために一緒に暮らし始めたのに。どんどん、想いが溢れていく。

獣人王と番の寵妃

沖田弥子
BL
オメガの天は舞手として、獣人王の後宮に参内する。だがそれは妃になるためではなく、幼い頃に翡翠の欠片を授けてくれた獣人を捜すためだった。宴で粗相をした天を、エドと名乗るアルファの獣人が庇ってくれた。彼に不埒な真似をされて戸惑うが、後日川辺でふたりは再会を果たす。以来、王以外の獣人と会うことは罪と知りながらも逢瀬を重ねる。エドに灯籠流しの夜に会おうと告げられ、それを最後にしようと決めるが、逢引きが告発されてしまう。天は懲罰として刑務庭送りになり――

【完結】運命の番に逃げられたアルファと、身代わりベータの結婚

貴宮 あすか
BL
ベータの新は、オメガである兄、律の身代わりとなって結婚した。 相手は優れた経営手腕で新たちの両親に見込まれた、アルファの木南直樹だった。 しかし、直樹は自分の運命の番である律が、他のアルファと駆け落ちするのを手助けした新を、律の身代わりにすると言って組み敷き、何もかも初めての新を律の名前を呼びながら抱いた。それでも新は幸せだった。新にとって木南直樹は少年の頃に初めての恋をした相手だったから。 アルファ×ベータの身代わり結婚ものです。

グッバイ運命

星羽なま
BL
表紙イラストは【ぬか。】様に制作いただきました。 《あらすじ》 〜決意の弱さは幸か不幸か〜  社会人七年目の渚琉志(なぎさりゅうじ)には、同い年の相沢悠透(あいざわゆうと)という恋人がいる。  二人は大学で琉志が発情してしまったことをきっかけに距離を深めて行った。琉志はその出会いに"運命の人"だと感じ、二人が恋に落ちるには時間など必要なかった。  付き合って八年経つ二人は、お互いに不安なことも増えて行った。それは、お互いがオメガだったからである。  苦労することを分かっていて付き合ったはずなのに、社会に出ると現実を知っていく日々だった。  歳を重ねるにつれ、将来への心配ばかりが募る。二人はやがて、すれ違いばかりになり、関係は悪い方向へ向かっていった。  そんな中、琉志の"運命の番"が現れる。二人にとっては最悪の事態。それでも愛する気持ちは同じかと思ったが… "運命の人"と"運命の番"。  お互いが幸せになるために、二人が選択した運命は── 《登場人物》 ◯渚琉志(なぎさりゅうじ)…社会人七年目の28歳。10月16日生まれ。身長176cm。 自分がオメガであることで、他人に迷惑をかけないように生きてきた。 ◯相沢悠透(あいざわゆうと)…同じく社会人七年目の28歳。10月29日生まれ。身長178cm。 アルファだと偽って生きてきた。

僕の追憶と運命の人-【消えない思い】スピンオフ

樹木緑
BL
【消えない思い】スピンオフ ーオメガバース ーあの日の記憶がいつまでも僕を追いかけるー 消えない思いをまだ読んでおられない方は 、 続きではありませんが、消えない思いから読むことをお勧めします。 消えない思いで何時も番の居るΩに恋をしていた矢野浩二が 高校の後輩に初めての本気の恋をしてその恋に破れ、 それでもあきらめきれない中で、 自分の運命の番を探し求めるお話。 消えない思いに比べると、 更新はゆっくりになると思いますが、 またまた宜しくお願い致します。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

事故つがいの夫が俺を離さない!

カミヤルイ
BL
事故から始まったつがいの二人がすれ違いを経て、両思いのつがい夫夫になるまでのオメガバースラブストーリー。 *オメガバース自己設定あり 【あらすじ】 華やかな恋に憧れるオメガのエルフィーは、アカデミーのアイドルアルファとつがいになりたいと、卒業パーティーの夜に彼を呼び出し告白を決行する。だがなぜかやって来たのはアルファの幼馴染のクラウス。クラウスは堅物の唐変木でなぜかエルフィーを嫌っている上、双子の弟の想い人だ。 エルフィーは好きな人が来ないショックでお守りとして持っていたヒート誘発剤を誤発させ、ヒートを起こしてしまう。 そして目覚めると、明らかに事後であり、うなじには番成立の咬み痕が! ダブルショックのエルフィーと怒り心頭の弟。エルフィーは治癒魔法で番解消薬を作ると誓うが、すぐにクラウスがやってきて求婚され、半ば強制的に婚約生活が始まって──── 【登場人物】 受け:エルフィー・セルドラン(20)幼馴染のアルファと事故つがいになってしまった治癒魔力持ちのオメガ。王立アカデミーを卒業したばかりで、家業の医薬品ラボで仕事をしている 攻め:クラウス・モンテカルスト(20)エルフィーと事故つがいになったアルファ。公爵家の跡継ぎで王都騎士団の精鋭騎士。

白銀オメガに草原で愛を

phyr
BL
草原の国ヨラガンのユクガは、攻め落とした城の隠し部屋で美しいオメガの子どもを見つけた。 己の年も、名前も、昼と夜の区別も知らずに生きてきたらしい彼を置いていけず、連れ帰ってともに暮らすことになる。 「私は、ユクガ様のお嫁さんになりたいです」 「ヒートが来るようになったとき、まだお前にその気があったらな」 キアラと名づけた少年と暮らすうちにユクガにも情が芽生えるが、キアラには自分も知らない大きな秘密があって……。 無意識溺愛系アルファ×一途で健気なオメガ ※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています

処理中です...