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予感
予感1
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和哉としてはその後も幼なりに柚希に真剣なアプローチを繰り返したつもりが、信じられないほどに鈍い柚希に『和哉可愛い。俺のことそんなに好きなの?(弟として)』とありありと顔に書かれたような反応でのらりくらりとかわされ続けた。
それでも二人は休みの日ともなれば買い物に出かけたり、家でゲームや共に好きな音楽を選んで聞かせ合ったりとべったり一緒で、はたから見ると大分距離感がバグった仲良し兄弟として暮らせていた。
和哉としては柚希が自分を一番に想っていてくれているだけで溜飲が下げ今のところは良しとしたのだ。
和哉が中学生に上がる頃にはすでに柚希のおさがりの学ランをそれほどぶかぶかでなく着こなし、すぐにでも柚希の背丈を越えてやる気満々だったが、成長期真っ只中なのは柚希も同じこと。
高校に入ってからもバスケ部で鍛えていたので痩せているくせにそれはよく食べ、よく眠り、身長もぐんぐん伸びていて和哉は柚希と越すに越せないデッドヒートを繰り広げていた。
柚希の大きな黒目がちな瞳に白い肌、背中から腰に掛けての曲線が美しい身体つきは背丈があってもどこかエロくて、和哉は一緒に風呂に入ると身体が明け透けな反応してしまいそうで、柚希はまだ一緒に入りたそうにしていたが泣く泣く諦めた。
季節はちょっとした動作でもじっとりと汗ばむ初夏を迎えた頃、和哉にとって待ちに待った柚希のバース検査の結果が発表された。ちょうど柚希が高2、和哉が中2の夏休みに入る直前だった。
いよいよ結果が分かるとあって、内心興奮し続けていた和哉はΩと判定を受けた兄に番になってとプロポーズまがいに迫り、柚希が白い頬を染めて可愛らしく「うん」とうなずく姿を夢に見続けてしまった。
「柚にいさあ、バース検査の結果ってどうだったの?」
この頃にはもう『ワンちゃんごっこ』で噛みつくことはなくなっていたが、相変わらず暇さえあれば相変わらず台所に立つ柚希に後ろから抱き着いたり、ソファーに腰かけた時は必ず隣に座りこんで柚希の肩に頭を凭れかけさせたたまに彼の海風みたいに爽やかな甘い香りを嗅いだりと、甘えたな動作は自然にしつこく続けていた。
この時も仲良くソファーに並んで座って、いつもどおりべったりと柚希にくっつき兄の腕に腕を絡め、顔では平静なさりげなさを装いつつも和哉はいよいよその日が来たと胸の高鳴りを抑えるのが大変だった。
(柚にいが、Ωだって言ったら……。僕は高校の任意検査前に絶対自費でバース検査を受けてやる。僕がαだったら番って欲しいって兄さんに申し込みたい。そうしたらあと2年ぐらいで兄さんと付き合えるよな? 絶対、僕αだろうし! 自信あるし。兄さんがβでもαでも僕は兄さんがいいから、その時はどうやって振り向いてもらうか考えないとな。『可愛い弟』作戦はそのうち限界がくるだろうし……)
夏にはすでにズボンを買い替える程のスピードで背が伸びていた和哉は、成績も抜群、兄の柚希もかつて所属したバスケ部では一年生ながらレギュラーを勝ち取っていた。生徒会役員に推す声も多く、男女ともに(より女子から)恰好が良くてでも人懐っこくて優しいと人気が高い。いわば同年代で負けなしで、口に出さないまでも自分にかなり自信があったのだ。
胸の中には幼いころからの兄を護れる男になりたいという強い決意を胸にしたまま、どうやったら三つ年上の同性からお付き合いのOKをもらえるのだろうと考えて。ちらりとみた兄のスマホを弄る色白の綺麗な横顔は、喜色を浮かべいつも通り明るく屈託ない。
「ねえって、兄さん、どうだったの?」
しかし柚希はその質問にはあまり興味がなさそうにスマホの通知の音を夥しく鳴らしながらバスケ部グループからの連絡をスクロールさせて見つめてはニコニコとしている。兄が自分以外に夢中になることは少ないが、和哉は何となくムッとして腹を小突くと、痛っといって頭を軽く叩かれた。
そして本当に何気なく……。今日の夕飯のおかずぐらいの気安さで和哉にこう告げたのだった。
「あ、俺、多分βだった。あと彼女できた。夏休みにバスケ部のみんなでそれぞれ彼女も連れて水族館行くことになったけど、和哉も一緒に行きたい?」
頭をがつん、と殴られるという表現はこういう時に使うのだろう。それほどに衝撃的な告白だった。
(多分βってなんだよ? 彼女ってなんだよ?! 僕も一緒に行こうって、なんなんだよ??)
「……彼女できたの? 柚にい、好きな人いたの?」
「うーん。好きっていうか……。なんか一年の女子が沢山いるところに呼び出されて告白されたんだけどさ。今どきスマホで告白してこないの珍しいし、みんなの前で断ったりしたら傷つくだろ? 別に俺今彼女いないし、だからいいかなあって」
「なんだよそれ! そんな付き合い方って!」
(いいわけないだろ?! この馬鹿兄貴!!!)
と叫びだし、今すぐ別れろと喚き散らしたくなったが、柚希に告白をしたわけでもなく、彼氏でもない和哉にそんな風に言える資格もない。
ただ茫然と
それでも二人は休みの日ともなれば買い物に出かけたり、家でゲームや共に好きな音楽を選んで聞かせ合ったりとべったり一緒で、はたから見ると大分距離感がバグった仲良し兄弟として暮らせていた。
和哉としては柚希が自分を一番に想っていてくれているだけで溜飲が下げ今のところは良しとしたのだ。
和哉が中学生に上がる頃にはすでに柚希のおさがりの学ランをそれほどぶかぶかでなく着こなし、すぐにでも柚希の背丈を越えてやる気満々だったが、成長期真っ只中なのは柚希も同じこと。
高校に入ってからもバスケ部で鍛えていたので痩せているくせにそれはよく食べ、よく眠り、身長もぐんぐん伸びていて和哉は柚希と越すに越せないデッドヒートを繰り広げていた。
柚希の大きな黒目がちな瞳に白い肌、背中から腰に掛けての曲線が美しい身体つきは背丈があってもどこかエロくて、和哉は一緒に風呂に入ると身体が明け透けな反応してしまいそうで、柚希はまだ一緒に入りたそうにしていたが泣く泣く諦めた。
季節はちょっとした動作でもじっとりと汗ばむ初夏を迎えた頃、和哉にとって待ちに待った柚希のバース検査の結果が発表された。ちょうど柚希が高2、和哉が中2の夏休みに入る直前だった。
いよいよ結果が分かるとあって、内心興奮し続けていた和哉はΩと判定を受けた兄に番になってとプロポーズまがいに迫り、柚希が白い頬を染めて可愛らしく「うん」とうなずく姿を夢に見続けてしまった。
「柚にいさあ、バース検査の結果ってどうだったの?」
この頃にはもう『ワンちゃんごっこ』で噛みつくことはなくなっていたが、相変わらず暇さえあれば相変わらず台所に立つ柚希に後ろから抱き着いたり、ソファーに腰かけた時は必ず隣に座りこんで柚希の肩に頭を凭れかけさせたたまに彼の海風みたいに爽やかな甘い香りを嗅いだりと、甘えたな動作は自然にしつこく続けていた。
この時も仲良くソファーに並んで座って、いつもどおりべったりと柚希にくっつき兄の腕に腕を絡め、顔では平静なさりげなさを装いつつも和哉はいよいよその日が来たと胸の高鳴りを抑えるのが大変だった。
(柚にいが、Ωだって言ったら……。僕は高校の任意検査前に絶対自費でバース検査を受けてやる。僕がαだったら番って欲しいって兄さんに申し込みたい。そうしたらあと2年ぐらいで兄さんと付き合えるよな? 絶対、僕αだろうし! 自信あるし。兄さんがβでもαでも僕は兄さんがいいから、その時はどうやって振り向いてもらうか考えないとな。『可愛い弟』作戦はそのうち限界がくるだろうし……)
夏にはすでにズボンを買い替える程のスピードで背が伸びていた和哉は、成績も抜群、兄の柚希もかつて所属したバスケ部では一年生ながらレギュラーを勝ち取っていた。生徒会役員に推す声も多く、男女ともに(より女子から)恰好が良くてでも人懐っこくて優しいと人気が高い。いわば同年代で負けなしで、口に出さないまでも自分にかなり自信があったのだ。
胸の中には幼いころからの兄を護れる男になりたいという強い決意を胸にしたまま、どうやったら三つ年上の同性からお付き合いのOKをもらえるのだろうと考えて。ちらりとみた兄のスマホを弄る色白の綺麗な横顔は、喜色を浮かべいつも通り明るく屈託ない。
「ねえって、兄さん、どうだったの?」
しかし柚希はその質問にはあまり興味がなさそうにスマホの通知の音を夥しく鳴らしながらバスケ部グループからの連絡をスクロールさせて見つめてはニコニコとしている。兄が自分以外に夢中になることは少ないが、和哉は何となくムッとして腹を小突くと、痛っといって頭を軽く叩かれた。
そして本当に何気なく……。今日の夕飯のおかずぐらいの気安さで和哉にこう告げたのだった。
「あ、俺、多分βだった。あと彼女できた。夏休みにバスケ部のみんなでそれぞれ彼女も連れて水族館行くことになったけど、和哉も一緒に行きたい?」
頭をがつん、と殴られるという表現はこういう時に使うのだろう。それほどに衝撃的な告白だった。
(多分βってなんだよ? 彼女ってなんだよ?! 僕も一緒に行こうって、なんなんだよ??)
「……彼女できたの? 柚にい、好きな人いたの?」
「うーん。好きっていうか……。なんか一年の女子が沢山いるところに呼び出されて告白されたんだけどさ。今どきスマホで告白してこないの珍しいし、みんなの前で断ったりしたら傷つくだろ? 別に俺今彼女いないし、だからいいかなあって」
「なんだよそれ! そんな付き合い方って!」
(いいわけないだろ?! この馬鹿兄貴!!!)
と叫びだし、今すぐ別れろと喚き散らしたくなったが、柚希に告白をしたわけでもなく、彼氏でもない和哉にそんな風に言える資格もない。
ただ茫然と
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