仔犬のキス 狼の口付け ~遅発性オメガは義弟に執心される~

天埜鳩愛

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「……僕がαだったら、兄さん嬉しい?」
「嬉しい? うーん。まあαの知り合いは今のとこ敦哉さんぐらいしかいないけどさ、αって俳優さんとかにも多いし、チートなイケメンが多いっていうだろ? 弟がそんな風にかっこよく育ったら俺なら『俺がこいつを育てたんだぜ』って自慢しちゃうかな? まあでも和哉がαじゃなくても、俺にとっては大事な弟だってことに変わらないし、和哉は今も十分誰よりも可愛いもんな」
 兄がそのままの自分を認めて親愛を寄せてくれているのはもちろん嬉しい。嬉しいが、和哉が求めているのはそれではない。それではたりないのだ。

「……可愛いより、かっこいいのがいい」
「はいはい、和哉はかっこいいって」
「心こもってない」
「だって可愛いんだからしょうがないだろ? この大きくて綺麗な目! つるつるほっぺ。女子より可愛い、あ。いいすぎか? ああ、でもさ別に俺、男だし、まあちょっとぐらい痕残ってもさ、いいけど。もうやめとこうな。ワンちゃんごっこで噛みつくの」
「……」

 柚希は目をきらきらさせた笑顔のまま、和哉が尖らせた唇をほっそりした指先できゅっとつまむ。ぐりぐりっと頭を撫ぜられて、頬をぷにっとつままれ、いつもならば嬉しいのにその時はなんだか子供扱いが嫌に癪に触って手をゆっくりとのけたら、柚希がしゅんっとしてしまった。

「あ、ごめん……。俺がこうやって構うからお前が調子に乗っちゃうんだもんな」
「兄さん、僕がαで、兄さんがΩだったら。僕が兄さんに噛みついてもいい?」
「えー。俺がΩ? そんなわけないだろ。お前はαかもしれないけど」

 はぐらかしてゆらゆらと膝を上げ下げして和哉の腰に手を回して子どもをあやすように揺らしてくる。相変わらず呑気な柚希の様子に苛立った和哉は、思い切り兄の左肩を押してベッドの上に共に縺れるように倒れこんだ。

(舐めんな)

 和哉は力で勝る兄がすぐに立ちあがられぬように兄の腰にまたがり、ぐっと身体を押し付けると、兄の細い手首をバンザイをするような形で素早く頭上に縫い留める。
 笑みを湛えた純粋な瞳が柔らかく細められ和哉を見上げてくるが、和哉は最近ではぐっと父の面差しを濃くした眦に力を籠める。

「和哉! だから、あんまりふざけるの……」

 先ほど可愛いと褒めちぎった大きなぱっちりとした瞳が細められると、途端に色気のようなものが迸る和哉の目元に柚希が息をのんだ。その桜色の柔らかな唇に狙いを定めると、和哉は顔をやや横に倒し角度をつけながら兄の唇に吸い付くように唇を重ねようとした。

「んーっ、だめ!」

 すんでのところで避けた柚希も、今度は格闘技ごっことばかりに大暴れし返す。足を使って弟をベッドの奥に投げ飛ばすと、口に手を当てて目を白黒とさせている。
 和哉はむくっと起き上がると乱れた長めの前髪をかき上げ、どこか男っぽさを宿した瞳で柚希をひたっと見つめてきた。
 面白いぐらいに色白の顔を真っ赤にさせた柚希の手を掴んでぎゅっと握るとにこっとそこは愛らしい笑顔を見せた。

「キスはいいでしょ? 噛んでないよ」

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