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柚希が無抵抗なのをいいことにそっとガーゼを固定していたテープを外すと、噛み痕は和哉の綺麗な歯並びの歯型がしっかりついて周囲は少しだけ赤くぷくっと膨れていた。
その痕を見つめていると、先ほど柚希に噛みついた時の高揚感がぞくっと呼び起される。また和哉が噛みつくとでも思ったのだろうか。柚希が身体を強張らせたのではっとする。
(怖がらせちゃ、駄目だ。僕はいまはまだ『ワンちゃん』だろ?)
「ごめんね、痛そうだね。もっと冷やす? 腫れないといいな。痕が見えたら学校で何か言われるかな?」
すぐにやや首を下げて兄の顔を覗き込み、形良く太い両眉を下げ、くぅーんと仔犬が啼くような健気な表情をみせながらも、和哉は内心うっすらでも痕が残ればいいのにと願う。
(兄さんは僕のものだっていう証。消えないで)
しかし単純な柚希は和哉のその貌にうっとりと絆されて、和哉のまだまろい頬をするっと撫ぜ、両手を投げだすように和哉の肩から首に回すと、ほっそりした鶴首をこてっと倒して優しくも悩ましく微笑んだ。
「学ランだから襟元まで見えないから大丈夫だよ?」
『だからもっとして?』とでも続けそうな甘い甘い雰囲気を醸し出すから和哉の方がうぐっと詰まって途端に恥ずかしくなってしまった。
兄だと強調するくせして、まるで恋人同士のような甘い仕草を仕掛けてくる。和哉の胸はドキドキと高鳴るが、兄は普段から無意識にこういうことをしでかして、かつまるで平静なのが本当に憎らしい。
「母さんがさ、和哉はもしかしたらαかもねって。お父さんがαだし、遺伝的には出やすいって。αってやたらと人を噛みたくなるのかな? わかんないけど。番を作る時の練習でもしてるのかな?」
脈絡があるのか分からないような会話は柚希と桃乃の得意とするところで、たまに和哉の理解の範囲を超えてしまう。
(αだから人を噛みたくなるとかはよくわからないけど、僕が噛みたくなるのは兄さんだけだ)
そう告白したいけど、今はまだ、言えない。言いたくない。
その痕を見つめていると、先ほど柚希に噛みついた時の高揚感がぞくっと呼び起される。また和哉が噛みつくとでも思ったのだろうか。柚希が身体を強張らせたのではっとする。
(怖がらせちゃ、駄目だ。僕はいまはまだ『ワンちゃん』だろ?)
「ごめんね、痛そうだね。もっと冷やす? 腫れないといいな。痕が見えたら学校で何か言われるかな?」
すぐにやや首を下げて兄の顔を覗き込み、形良く太い両眉を下げ、くぅーんと仔犬が啼くような健気な表情をみせながらも、和哉は内心うっすらでも痕が残ればいいのにと願う。
(兄さんは僕のものだっていう証。消えないで)
しかし単純な柚希は和哉のその貌にうっとりと絆されて、和哉のまだまろい頬をするっと撫ぜ、両手を投げだすように和哉の肩から首に回すと、ほっそりした鶴首をこてっと倒して優しくも悩ましく微笑んだ。
「学ランだから襟元まで見えないから大丈夫だよ?」
『だからもっとして?』とでも続けそうな甘い甘い雰囲気を醸し出すから和哉の方がうぐっと詰まって途端に恥ずかしくなってしまった。
兄だと強調するくせして、まるで恋人同士のような甘い仕草を仕掛けてくる。和哉の胸はドキドキと高鳴るが、兄は普段から無意識にこういうことをしでかして、かつまるで平静なのが本当に憎らしい。
「母さんがさ、和哉はもしかしたらαかもねって。お父さんがαだし、遺伝的には出やすいって。αってやたらと人を噛みたくなるのかな? わかんないけど。番を作る時の練習でもしてるのかな?」
脈絡があるのか分からないような会話は柚希と桃乃の得意とするところで、たまに和哉の理解の範囲を超えてしまう。
(αだから人を噛みたくなるとかはよくわからないけど、僕が噛みたくなるのは兄さんだけだ)
そう告白したいけど、今はまだ、言えない。言いたくない。
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