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マーキング

マーキング5

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「柚にい!    ごめんね!」
「うわっ!     びっくりした!」

 柚希は和哉と色違いの明るい黄緑色のベッドカバーの上仰向けになって、スマホをいじりながら動画を見ている所だった。
   扉を開けしな、おもむろに叫んだ和哉の声が聞こえなかったのか、起き上がって片耳のイヤホンを外して小首を傾げる。
ちらりとみえた柚希の首筋には、大きめのガーゼが大仰に貼り付けられていて痛々しい。
 和哉は後ろ手に閉めると、扉の前で怒られてしょぼくれる犬のようにすまなそうな顔をした。
     柚希はその顔を見てぷぷっと明るく吹き出すと、起き上がってベッドの上に胡座をかき和也に向かって両腕を広げて愛らしくにこっとする。

「おいで」

    和哉もぱあっと光が射すように広がる笑顔で返しすぐさま一目散に柚希の細くも長い腕の中に飛び込んで、勢い余って2人揃ってベッドの上に弾みながら寝転んでしまった。

   それでなんだか楽しくなって、温かい身体を互いに抱きしめあうと、どちらともなく笑い声をあげる。
 ひとしきり笑いあってから柚希が和哉を抱きしめたままむっくりと起き上がった。和哉は背丈はあってもまだ体重は軽いのでこんな時現役バスケ部員で、隠れマッチョの柚希にひょいっと抱き上げられるのが悔しい。
 兄の膝の上に載せられ向かいあわせで座りながら、和哉は殊勝な様子で俯きながら呟いた。

「……柚にい、ごめんね。痛かったよね」
「ほんと、痛かったぞ!    もうやらないでくれよな?」
「ごめん」

 膝の上だと白く滑らかな兄の額やすっと通った鼻梁、そして長い睫毛がすぐ傍にあり、もちろん抜群に感じの良い口元も手に届きそうだ。
 魅了されたまま兄の顔を見おろしていたら、睫毛を伏せそよがせてから柚希がためらいがちに呟いた。
  
「でもさ。オレも母さんに叱られたよ。和哉はちっちゃい頃から兄弟がいた訳じゃないから、悪ふざけの度合いが分からないんだろうって。お兄ちゃんなんだから柚希が止めてあげないとダメでしょうって」

   お兄ちゃんという所を少し誇らしげに強調する柚希は偉ぶる訳ではなく心の底から和哉を慈しんでくれている。そう分かるだけに、恋愛的感情を自覚している和哉はこと、複雑な気持ちを抱きやすくもなるのだ。

「兄さんが悪いわけじゃないよ。僕がふざけすぎたのがダメだった。本当にごめんね。……痕残るかもね?」
 

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