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もしかしたら敦哉は何となく、息子が自分と同じα性を持つのではと直感的に感じていたのかもしれない。
母が亡くなった時もそうだが、二人は親子ではあったが、どこか別の群れを率いる狼のα個体のように、息子をべたべたと甘やかさず対等に接している部分もあった。
「和哉、ちょっといいか?」
反省の為、部屋に籠っていた和哉と二人きりの時、戸口の前に立ったまま父は声をかけたが、説教の予感に和哉は返事もせずに本の字面だけを追った。
思春期に差し掛かった息子の頑なな態度に、敦哉は作戦を変えると小5の息子には少し難しいと思いつつもきっと理解できるだろうとこう切り出した。
「欲しい相手を従わせたいと沸き起こる欲求にけして屈してはいけないんだ。強い、抗いがたい感情だろうが、自分の力で無理にでも封じこまないと、一番愛するものをひどく傷つける。守りたい者に向けてよいのは、牙でなく惜しみない愛情だけだ。分かるな?」
聡い和哉は父が何を言わんとしているのかなんとなく見当がついていた。もしかしたら成長期とともにホルモンが不安定に増していくこの時期、α性を持つものが陥りがちな激情に似た衝動なのかもしれない。
「父さん。僕の中にはね? 真っ黒で凶暴な狼みたいなやつがいるんだ。それが兄さんが欲しいって、全部僕だけのものにしたいって、たまに暴れるんだ。父さんのことを見つめてる、兄さんの顔をひっつかんで、いつでも僕の方を向かせたくなる。兄さんに、噛みつきたい、僕の印をつけておきたい。兄さんは僕のものだって周りのみんなに叫びだしたくなるこの気持ちは……。僕の中の狼がそうさせるの?」
初めて吐露した本音に、敦哉は双眸をやや見開き、その後何か悟り納得したような顔をして大きく息を吐き息子に頷いた。
「それは……。成長して、お前が本当に俺と同じαだったら、きっと。いつかお前だけの番を得たら収まる感情なのかもしれない」
「番? 僕は兄さん以外欲しくないよ。だったら兄さんが僕の番だと思う。違うの?」
和哉と桃乃とは楽しそうに話す癖に、父親のことはそっちのけになりがちだった和哉が饒舌になったので机に向かっていた和哉の後ろを通って敦哉はベッドに長い脚を持て余すように腰かけた。
母が亡くなった時もそうだが、二人は親子ではあったが、どこか別の群れを率いる狼のα個体のように、息子をべたべたと甘やかさず対等に接している部分もあった。
「和哉、ちょっといいか?」
反省の為、部屋に籠っていた和哉と二人きりの時、戸口の前に立ったまま父は声をかけたが、説教の予感に和哉は返事もせずに本の字面だけを追った。
思春期に差し掛かった息子の頑なな態度に、敦哉は作戦を変えると小5の息子には少し難しいと思いつつもきっと理解できるだろうとこう切り出した。
「欲しい相手を従わせたいと沸き起こる欲求にけして屈してはいけないんだ。強い、抗いがたい感情だろうが、自分の力で無理にでも封じこまないと、一番愛するものをひどく傷つける。守りたい者に向けてよいのは、牙でなく惜しみない愛情だけだ。分かるな?」
聡い和哉は父が何を言わんとしているのかなんとなく見当がついていた。もしかしたら成長期とともにホルモンが不安定に増していくこの時期、α性を持つものが陥りがちな激情に似た衝動なのかもしれない。
「父さん。僕の中にはね? 真っ黒で凶暴な狼みたいなやつがいるんだ。それが兄さんが欲しいって、全部僕だけのものにしたいって、たまに暴れるんだ。父さんのことを見つめてる、兄さんの顔をひっつかんで、いつでも僕の方を向かせたくなる。兄さんに、噛みつきたい、僕の印をつけておきたい。兄さんは僕のものだって周りのみんなに叫びだしたくなるこの気持ちは……。僕の中の狼がそうさせるの?」
初めて吐露した本音に、敦哉は双眸をやや見開き、その後何か悟り納得したような顔をして大きく息を吐き息子に頷いた。
「それは……。成長して、お前が本当に俺と同じαだったら、きっと。いつかお前だけの番を得たら収まる感情なのかもしれない」
「番? 僕は兄さん以外欲しくないよ。だったら兄さんが僕の番だと思う。違うの?」
和哉と桃乃とは楽しそうに話す癖に、父親のことはそっちのけになりがちだった和哉が饒舌になったので机に向かっていた和哉の後ろを通って敦哉はベッドに長い脚を持て余すように腰かけた。
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