71 / 296
マーキング
マーキング3
しおりを挟む
もしかしたら敦哉は何となく、息子が自分と同じα性を持つのではと直感的に感じていたのかもしれない。
母が亡くなった時もそうだが、二人は親子ではあったが、どこか別の群れを率いる狼のα個体のように、息子をべたべたと甘やかさず対等に接している部分もあった。
「和哉、ちょっといいか?」
反省の為、部屋に籠っていた和哉と二人きりの時、戸口の前に立ったまま父は声をかけたが、説教の予感に和哉は返事もせずに本の字面だけを追った。
思春期に差し掛かった息子の頑なな態度に、敦哉は作戦を変えると小5の息子には少し難しいと思いつつもきっと理解できるだろうとこう切り出した。
「欲しい相手を従わせたいと沸き起こる欲求にけして屈してはいけないんだ。強い、抗いがたい感情だろうが、自分の力で無理にでも封じこまないと、一番愛するものをひどく傷つける。守りたい者に向けてよいのは、牙でなく惜しみない愛情だけだ。分かるな?」
聡い和哉は父が何を言わんとしているのかなんとなく見当がついていた。もしかしたら成長期とともにホルモンが不安定に増していくこの時期、α性を持つものが陥りがちな激情に似た衝動なのかもしれない。
「父さん。僕の中にはね? 真っ黒で凶暴な狼みたいなやつがいるんだ。それが兄さんが欲しいって、全部僕だけのものにしたいって、たまに暴れるんだ。父さんのことを見つめてる、兄さんの顔をひっつかんで、いつでも僕の方を向かせたくなる。兄さんに、噛みつきたい、僕の印をつけておきたい。兄さんは僕のものだって周りのみんなに叫びだしたくなるこの気持ちは……。僕の中の狼がそうさせるの?」
初めて吐露した本音に、敦哉は双眸をやや見開き、その後何か悟り納得したような顔をして大きく息を吐き息子に頷いた。
「それは……。成長して、お前が本当に俺と同じαだったら、きっと。いつかお前だけの番を得たら収まる感情なのかもしれない」
「番? 僕は兄さん以外欲しくないよ。だったら兄さんが僕の番だと思う。違うの?」
和哉と桃乃とは楽しそうに話す癖に、父親のことはそっちのけになりがちだった和哉が饒舌になったので机に向かっていた和哉の後ろを通って敦哉はベッドに長い脚を持て余すように腰かけた。
母が亡くなった時もそうだが、二人は親子ではあったが、どこか別の群れを率いる狼のα個体のように、息子をべたべたと甘やかさず対等に接している部分もあった。
「和哉、ちょっといいか?」
反省の為、部屋に籠っていた和哉と二人きりの時、戸口の前に立ったまま父は声をかけたが、説教の予感に和哉は返事もせずに本の字面だけを追った。
思春期に差し掛かった息子の頑なな態度に、敦哉は作戦を変えると小5の息子には少し難しいと思いつつもきっと理解できるだろうとこう切り出した。
「欲しい相手を従わせたいと沸き起こる欲求にけして屈してはいけないんだ。強い、抗いがたい感情だろうが、自分の力で無理にでも封じこまないと、一番愛するものをひどく傷つける。守りたい者に向けてよいのは、牙でなく惜しみない愛情だけだ。分かるな?」
聡い和哉は父が何を言わんとしているのかなんとなく見当がついていた。もしかしたら成長期とともにホルモンが不安定に増していくこの時期、α性を持つものが陥りがちな激情に似た衝動なのかもしれない。
「父さん。僕の中にはね? 真っ黒で凶暴な狼みたいなやつがいるんだ。それが兄さんが欲しいって、全部僕だけのものにしたいって、たまに暴れるんだ。父さんのことを見つめてる、兄さんの顔をひっつかんで、いつでも僕の方を向かせたくなる。兄さんに、噛みつきたい、僕の印をつけておきたい。兄さんは僕のものだって周りのみんなに叫びだしたくなるこの気持ちは……。僕の中の狼がそうさせるの?」
初めて吐露した本音に、敦哉は双眸をやや見開き、その後何か悟り納得したような顔をして大きく息を吐き息子に頷いた。
「それは……。成長して、お前が本当に俺と同じαだったら、きっと。いつかお前だけの番を得たら収まる感情なのかもしれない」
「番? 僕は兄さん以外欲しくないよ。だったら兄さんが僕の番だと思う。違うの?」
和哉と桃乃とは楽しそうに話す癖に、父親のことはそっちのけになりがちだった和哉が饒舌になったので机に向かっていた和哉の後ろを通って敦哉はベッドに長い脚を持て余すように腰かけた。
0
お気に入りに追加
299
あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

元ベータ後天性オメガ
桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。
ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。
主人公(受)
17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。
ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。
藤宮春樹(ふじみやはるき)
友人兼ライバル(攻)
金髪イケメン身長182cm
ベータを偽っているアルファ
名前決まりました(1月26日)
決まるまではナナシくん‥。
大上礼央(おおかみれお)
名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥
⭐︎コメント受付中
前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。
宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる