仔犬のキス 狼の口付け ~遅発性オメガは義弟に執心される~

天埜鳩愛

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 しかし焦りから無意識に柚希は自分のものだと周囲に分からせるように『ワンちゃんごっこ』をエスカレートさせ、ある日痕が残るほどの噛み痕を兄の身体に刻みつけてしまった。
 再婚後のことだから、二人が出会って二度目の冬。

 その日も普段通りソファーから跳び付いて柚希の背中に飛び乗ってふざけていた和哉だった。あの柚希特有の石鹸に似た清らかな色香漂う、素肌の香りを嗅ぎたくて相変わらず真っ白な首筋に顔を埋めて唇を寄せると、柚希がくすぐったがって和哉を振り落として逃げようとした。

 『柚希が逃げる』というその符号にだけ身体が強く反応し、反射的にぞくぞくぞくっと得体のしれぬ感情が胎の奥から背中まで駆け抜けた。
 気が付くと和哉は柚希に後ろから組み付き引き倒しながら、身をよじる柚希に馬乗りになって、真っ白でまだか細い首の付け根に無我夢中でがっつりと犬歯を突き立てていた。 

「ああっ!! 痛い、痛いよ! やめて! カズ」

    当然床をずり這い逃げようとする柚希の背に乗ったまま、手首を上から押さえつけ、和哉は血のにじむ噛み跡に舌を這わせると、柚希が「やめて、お願いっ」とすすり泣くような憐れでありつつ色香漂う悲鳴をあげたのに、なお煽られる。

(欲しい、兄さんの全部が欲しいよ)

 ずくんっ、と。成長の早い身体の奥が重たく疼き、このまま兄の首筋に何度でも唇を押し当てながら、学生服の下に手を入れ滑らかな素肌をまさぐりたい衝動にかられた。柚希と共に風呂に入るのをやめたのも、どこもかしこも真っ白で下映えだけが薄くも黒々とし、腰が艶めかしくくびれたその身体を夢にも見て朝起きた時に下着を汚してしまったからだ。
 優しい柚希は目に涙をいっぱいにためながら弟が支配欲と牙を剥き出しにし自分を力いっぱい押さえつけているというのに、抗って振り払うことで弟に怪我をさせることを恐れて拳を握って耐えていた。

 騒ぎを聞きつけてリビングに戻った敦哉が二人を引き離した時にはもう柚希の首には消えない痕がついた後で、流石にもうそういうことは止めなさいと親たちを困惑させ、こっぴどく叱られた。
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