仔犬のキス 狼の口付け ~遅発性オメガは義弟に執心される~

天埜鳩愛

文字の大きさ
上 下
63 / 296
約束

約束2

しおりを挟む
どうしてこんなにも短期間で年も通う学校も違う二人が仲良くなったのかと振り返って考えると不思議だったが、それはやはり互いに友人たちには見せられぬ寂しさや弱みをも曝け出せる相手として認め合ったからに他ならないだろう。

    友人が多く陽気で寂しいところや暗いところを人に見せたくない柚希と教師からも賢い子だと一目置かれ、しっかり者で母の死後もとても気丈に過ごしている和哉。

 2人とも学校においても家庭でも、いわゆる手のかからない子だったが、その反動か二人でいる時は互いにお互いを自然に甘え、甘やかしあった。

 柚にい、カズと親しげに呼び合い、まるで擬似兄弟のような心地になって、心の中に知らず出来ていた隙間を交互に愛情を注いで満たし続けた。
 心に素直になることで自分の中の悲しみや弱さと向き合わざるを得なくなる。それが嫌で、柚希を利用してやるなどとつっぱっていた和哉の心の意固地な部分など、柚希の淡い桜色の唇に浮かぶパンケーキみたいにふんわり甘い笑顔一つで、すっかり蕩けさせられた。
 逆に柚希の方も和哉が愛くるしいと評判の顔立ちでにこにこ素直に柚希を慕い甘えてくるのが、それはそれは嬉しくて和哉のことが日ごと愛おしくてたまらなくなっていた。
    柚希は何時でも1番大好きなものを見つめているような潤んだ『きらきらお目目』をして、和哉を見つめ返してくれる。その度和哉は態度に出ないまでも天にも登る気持ちになれた。
 ただ微笑みあうだけで互いに胸の中が芯から温まれる。そんなよい方法を編み出したのだから、手放せるはずがなかったのだ。

   友達が多い柚希は部活の後公園で話し込んでいる日もあったが、大抵はスマホに律儀に帰宅の連絡を入れてくれて、それを見た和哉が公園に走りこんでくるとアパートの窓から眺め前のめりに手を振って、自分も古ぼけた鉄の階段をかんかんっと音を立てており、嬉しそうに出迎えてくれた。
 柚希は公園でまだ友達と一緒にいる時だって、和哉がやってきたら残念がる彼らにあっさりさよならを言い、さっさと二人して和哉のアパートに向かう。

 柚希は飛び切り可愛い上に明るくて友人も多い。彼らが本当は少し和哉のことを邪魔くさく思っているのも彼らの視線から和哉は感じてた。
 でもその友人の誰よりも和哉を優先してくれることに優越感に浸りながら、差し出してくれる温かい手を握ると、何の落ち度もない優しい母を突然無慈悲に奪われ亡くしたという心に巣食う寂しさや悔しさの全てが浄化される心地だった。

  隣りを歩く和哉を見おろしながら、柚希は日向で揺れる白い花のように清らかな笑顔を浮かべて『腹減ってるか?』とまだ変声期が終わり切っていない澄んだ声で聞いてくれる。
 和哉は家に用意されているおやつやご飯もあるにはあったが、それには触れずに頷くと柚希が嬉しそうな顔をして台所に向かってくれた。
 学ランを脱いでシャツの腕をまくり、そのままエプロンをつける。
 それが何とも言えない清潔感に溢れた楚々とした後ろ姿で、すっと伸びつつもどこか儚げな背中にすがり抱きつきたくて仕方なくなる。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

処理中です...