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柔く白い手
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公園を挟んで和哉の住んでいた4LDKの分譲マンションと、柚希と母が暮らしていた古い二階建てのアパートは隣同士だった。
外見はかなり古めかしいアパートだが中は思いのほか綺麗にリフォームされていて一応畳敷きではなかった。
いわゆるLDKと六畳の洋室が一つきりで他に家族の姿はない。
「うち、母さんと二人暮らしで、今まだ仕事に行ってるから気にしないで上がりなよ」
靴を脱がずに上がりそうになるほど段差の乏しい玄関で、慌てて靴を脱いで殆ど初対面の少年の家まで上がり込んでしまった。
そして有無を言わせず洗面台にまで連れてこられた。
背後に立った柚希が腕を回して和哉は彼に後ろから抱きしめられるような体勢になり、そのままの姿勢で蛇口をひねるとじゃーっと水を出しっぱなしにする。
何度か水に手を翳しているから何かと思ったら、お湯になるまで時間がかかるようで、丁寧に温度を推し量ってくれているようだった。細やかな仕草に彼が保護者から愛情深く育てられたことを感じ、そして和哉も優しかった母を思い出して鼻の奥が少しだけツンっとなった。
湯気が立ち昇ってきたら、外側からやんわりと優しく柚希に手を握られた。
母をなくして以来人との触れ合いに飢えていた身体は、なんとなくその温みに反応してしまう。
「洗うよ」
柚希はそういうと和哉の肩越しに腕を外側から回してバッグハグをするような姿勢になり、まずは無傷な左手から洗い始めた。
さっきの友人相手に啖呵を切った威勢のいい様子では和哉は非常に豪快な性格かと思われたが、意外なほど柚希の手つきはたおやかに優しい。
ハンドソープを自らの手にも付けて揉み込むように泡立てながら、続いて右手の傷の辺りの泥汚れをそっと撫ぜる。
「いっ」
「痛いけど、頑張るんだよ」
確かに痛いがそんな風に優しく励まされたら頑張るしかないだろう。
ほっそりした指先で指の腹を撫ぜるようにされてこびりついた土と血が水と共に洗い流され、排水口からくるくると回りながら消えていく。
懸命に洗ってくれ過ぎて顔がどんどん洗面台に近づいていったから、屈んだ柚希のさらさらとした黒髪が和哉の項に『ふぅ』というくすぐったく甘い吐息と共に降りかかる。
和哉も大きなスポーツバッグにバスケットボールのキーホルダーがついていたからきっと部活帰りは間違いなかったが、若い男特有の汗臭さがまるで感じられず、むしろ清潔感溢れる石鹸のような爽やかな香りが漂ってきた。
妙なくすぐったさを感じて少し身震いすると、痛がっていると思ったのかお湯をさらにちょろちょろと落ちるように調整して、そろりそろりと掌の擦過傷にも触れ始めた。
指の股まで柔やわと白い指を絡められながら丁寧に洗われたら、何故だか心がきゅっと掌で包まれそのまま縮められたように切なくなり、ぞくぞくとした感覚が何故か下腹部のあたりからせり上がってきた。
クラスの男子の中には女の裸がどうのこうのと年長の兄弟からの受け売りで拙い性の知識を面白おかしくひけらかすものも増えてきたが、和哉はあまりそちらには興味がない方だった。しかし今なぜだかあらぬ場所がむずむずとするような恥ずかしくも落ち着かない心地に思わず太腿をすり合わせた。
(なんか……、どうしよう。痛いのに、なんか気持ちいい)
外見はかなり古めかしいアパートだが中は思いのほか綺麗にリフォームされていて一応畳敷きではなかった。
いわゆるLDKと六畳の洋室が一つきりで他に家族の姿はない。
「うち、母さんと二人暮らしで、今まだ仕事に行ってるから気にしないで上がりなよ」
靴を脱がずに上がりそうになるほど段差の乏しい玄関で、慌てて靴を脱いで殆ど初対面の少年の家まで上がり込んでしまった。
そして有無を言わせず洗面台にまで連れてこられた。
背後に立った柚希が腕を回して和哉は彼に後ろから抱きしめられるような体勢になり、そのままの姿勢で蛇口をひねるとじゃーっと水を出しっぱなしにする。
何度か水に手を翳しているから何かと思ったら、お湯になるまで時間がかかるようで、丁寧に温度を推し量ってくれているようだった。細やかな仕草に彼が保護者から愛情深く育てられたことを感じ、そして和哉も優しかった母を思い出して鼻の奥が少しだけツンっとなった。
湯気が立ち昇ってきたら、外側からやんわりと優しく柚希に手を握られた。
母をなくして以来人との触れ合いに飢えていた身体は、なんとなくその温みに反応してしまう。
「洗うよ」
柚希はそういうと和哉の肩越しに腕を外側から回してバッグハグをするような姿勢になり、まずは無傷な左手から洗い始めた。
さっきの友人相手に啖呵を切った威勢のいい様子では和哉は非常に豪快な性格かと思われたが、意外なほど柚希の手つきはたおやかに優しい。
ハンドソープを自らの手にも付けて揉み込むように泡立てながら、続いて右手の傷の辺りの泥汚れをそっと撫ぜる。
「いっ」
「痛いけど、頑張るんだよ」
確かに痛いがそんな風に優しく励まされたら頑張るしかないだろう。
ほっそりした指先で指の腹を撫ぜるようにされてこびりついた土と血が水と共に洗い流され、排水口からくるくると回りながら消えていく。
懸命に洗ってくれ過ぎて顔がどんどん洗面台に近づいていったから、屈んだ柚希のさらさらとした黒髪が和哉の項に『ふぅ』というくすぐったく甘い吐息と共に降りかかる。
和哉も大きなスポーツバッグにバスケットボールのキーホルダーがついていたからきっと部活帰りは間違いなかったが、若い男特有の汗臭さがまるで感じられず、むしろ清潔感溢れる石鹸のような爽やかな香りが漂ってきた。
妙なくすぐったさを感じて少し身震いすると、痛がっていると思ったのかお湯をさらにちょろちょろと落ちるように調整して、そろりそろりと掌の擦過傷にも触れ始めた。
指の股まで柔やわと白い指を絡められながら丁寧に洗われたら、何故だか心がきゅっと掌で包まれそのまま縮められたように切なくなり、ぞくぞくとした感覚が何故か下腹部のあたりからせり上がってきた。
クラスの男子の中には女の裸がどうのこうのと年長の兄弟からの受け売りで拙い性の知識を面白おかしくひけらかすものも増えてきたが、和哉はあまりそちらには興味がない方だった。しかし今なぜだかあらぬ場所がむずむずとするような恥ずかしくも落ち着かない心地に思わず太腿をすり合わせた。
(なんか……、どうしよう。痛いのに、なんか気持ちいい)
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