55 / 296
運命の出会い
2
しおりを挟む
秋の日は落ちるのが早い。 急には目がなれぬほど薄暗く日が暮れてきた公園からは和哉ぐらいの年の子どもはどんどん引けていく。
その代わりに近隣中学から部活帰りの中学生がちらほらと通りがかる。毎日だいたい同じ時刻に通るからなんとなく見覚えのある顔ばかりだ。
道路側の端に植えられた金木犀が甘く濃厚な香りを漂わせている。
このところ毎日和哉がベンチに座っていることを知っているものも多いようだ。その日はある生徒がつかつかと近寄ってきてかなり強い口調で呼びかけられた。
「お前いつもここ陣取ってるよな? 俺らもここ座りたいんだけど、どいてくんない?」
仁王立ちした少年のカバンについたサッカーボール型のキーホルダーが大きく揺れた。
先に座っていたのは和哉だし、向こうは近隣の中学の制服姿でをつけた年上のグループだ。しかし相手が大人数だからといって即引くのもしゃくだった。
「ボクが先にここに座ってたんですけど?」
「僕だって? お前、女じゃねぇの?」
それだけで周りに嘲るような笑いがさざ波のように伝わって、和哉は非常に不愉快になった。
母が亡くなる前からやや普通の男の子よりは長めだった髪の毛は今や伸び放題だ。
妻子思いで土日は必ず家族で出かけるなど、あれだけ活動的だった父は、妻を亡くした衝撃から立ち直れずに、今では休みには昼までと言わず終始寝てばかりだ。
平日は平日で帰ってくる時間も遅いので、和哉の身だしなみについて気がつく余裕がなかったのだろう。もっとも家事代行の人が来ているから服装が、小汚いということもない。
同級生はみな和哉に同情的でいちいち髪型について指摘されたことはなかった。初対面のものから見たらこの頃の和哉は愛らしいかった母の面差しに似た、美少女に見えていたのかもしれない。
サラサラの光に透かすと金色にすら見える明るい茶色の髪に、同じくガラス玉みたいと言われるほどの色の薄い瞳。夏休みの途中からどこにも行けずに家に引きこもっていたせいで、肌も真っ白で、その上今日に限って母親の趣味に寄った、明るい色調の赤と黄色のチェックのシャツを着ていた。
可愛い顔立ちをしているくせに生意気な態度の和哉から、良くない刺激になったようだ。中学生達はわざと意地悪をしてみたい欲求に駆られざわつく。
「まじかよ? 男女? ほんとに男?」
「女みてぇな顔じゃない? 」
「離せよ! クソ野郎」
今まで使ったこともないように汚い言葉を吐き捨てて、和哉は掴まれた腕を振りほどく。その時、拳が相手の身体に激しくあたり、中学生は怖い顔になった。
「なんだこいつ? 生意気じゃねぇ?」
和哉が嫌気がさして家に帰ろうとベンチから立ちあがったところを、ばんっと突き飛ばされた。
「……っ!」
よろけた拍子に運悪く日陰で乾いていなかった湿った泥の上に尻もちをついた。当然ズボンは泥だらけ、ついた掌もピリッと痛みが走る。
その上大切なスマホも回転しながら結構遠くまで飛んでいく。そしてこちらに向かって歩いてくるところだった制服の少年の足元に落ちた。
「ふざけんなよ! なにすんだよ!」
悔しさと理不尽さに和哉が顔を真っ赤にして声を震わせた。流石に周りの中学生たちも、小学生相手に何をやっているんだと引き気味になっている。
突き飛ばした相手も引っ込みがつかなくなったのか謝るタイミングをなくして立ち尽くしていた。
その代わりに近隣中学から部活帰りの中学生がちらほらと通りがかる。毎日だいたい同じ時刻に通るからなんとなく見覚えのある顔ばかりだ。
道路側の端に植えられた金木犀が甘く濃厚な香りを漂わせている。
このところ毎日和哉がベンチに座っていることを知っているものも多いようだ。その日はある生徒がつかつかと近寄ってきてかなり強い口調で呼びかけられた。
「お前いつもここ陣取ってるよな? 俺らもここ座りたいんだけど、どいてくんない?」
仁王立ちした少年のカバンについたサッカーボール型のキーホルダーが大きく揺れた。
先に座っていたのは和哉だし、向こうは近隣の中学の制服姿でをつけた年上のグループだ。しかし相手が大人数だからといって即引くのもしゃくだった。
「ボクが先にここに座ってたんですけど?」
「僕だって? お前、女じゃねぇの?」
それだけで周りに嘲るような笑いがさざ波のように伝わって、和哉は非常に不愉快になった。
母が亡くなる前からやや普通の男の子よりは長めだった髪の毛は今や伸び放題だ。
妻子思いで土日は必ず家族で出かけるなど、あれだけ活動的だった父は、妻を亡くした衝撃から立ち直れずに、今では休みには昼までと言わず終始寝てばかりだ。
平日は平日で帰ってくる時間も遅いので、和哉の身だしなみについて気がつく余裕がなかったのだろう。もっとも家事代行の人が来ているから服装が、小汚いということもない。
同級生はみな和哉に同情的でいちいち髪型について指摘されたことはなかった。初対面のものから見たらこの頃の和哉は愛らしいかった母の面差しに似た、美少女に見えていたのかもしれない。
サラサラの光に透かすと金色にすら見える明るい茶色の髪に、同じくガラス玉みたいと言われるほどの色の薄い瞳。夏休みの途中からどこにも行けずに家に引きこもっていたせいで、肌も真っ白で、その上今日に限って母親の趣味に寄った、明るい色調の赤と黄色のチェックのシャツを着ていた。
可愛い顔立ちをしているくせに生意気な態度の和哉から、良くない刺激になったようだ。中学生達はわざと意地悪をしてみたい欲求に駆られざわつく。
「まじかよ? 男女? ほんとに男?」
「女みてぇな顔じゃない? 」
「離せよ! クソ野郎」
今まで使ったこともないように汚い言葉を吐き捨てて、和哉は掴まれた腕を振りほどく。その時、拳が相手の身体に激しくあたり、中学生は怖い顔になった。
「なんだこいつ? 生意気じゃねぇ?」
和哉が嫌気がさして家に帰ろうとベンチから立ちあがったところを、ばんっと突き飛ばされた。
「……っ!」
よろけた拍子に運悪く日陰で乾いていなかった湿った泥の上に尻もちをついた。当然ズボンは泥だらけ、ついた掌もピリッと痛みが走る。
その上大切なスマホも回転しながら結構遠くまで飛んでいく。そしてこちらに向かって歩いてくるところだった制服の少年の足元に落ちた。
「ふざけんなよ! なにすんだよ!」
悔しさと理不尽さに和哉が顔を真っ赤にして声を震わせた。流石に周りの中学生たちも、小学生相手に何をやっているんだと引き気味になっている。
突き飛ばした相手も引っ込みがつかなくなったのか謝るタイミングをなくして立ち尽くしていた。
0
お気に入りに追加
300
あなたにおすすめの小説
真柴さんちの野菜は美味い
晦リリ
BL
運命のつがいを探しながら、相手を渡り歩くような夜を繰り返している実業家、阿賀野(α)は野菜を食べない主義。
そんななか、彼が見つけた運命のつがいは人里離れた山奥でひっそりと野菜農家を営む真柴(Ω)だった。
オメガなのだからすぐにアルファに屈すると思うも、人嫌いで会話にすら応じてくれない真柴を落とすべく山奥に通い詰めるが、やがて阿賀野は彼が人嫌いになった理由を知るようになる。
※一話目のみ、攻めと女性の関係をにおわせる描写があります。
※2019年に前後編が完結した創作同人誌からの再録です。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
こじらせΩのふつうの婚活
深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。
彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。
しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。
裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる