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運命の出会い

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 少しだけ昔々。
   和哉と柚希がまだ兄弟になる前。

 和哉が家族3人で住んでいたマンションの隣には敷地沿いに貼り付くように公園があった。
 広さはそれなりにあるけれど、鬱蒼と木々が茂っていて遊具はブランコと滑り台がある程度の、比較的地味めな場所だ。小学生でも学年が大きな子が幅を利かせてボール遊びをしているような、そんな公園。

「じゃあな、俺塾あるし、バイバイ!」
「俺も……。今日習い事あるから」
「わかった。また明日!」

 そんな感じに友人たちが次々と手を振って公園を後にする中、和哉はベンチに座ってスマホを弄り、父からのメッセージを確認し始めた。

(父さん、今日の帰りも9時過ぎるんだ。「夕食は『代行』さんの作り置きをレンチンしてください」か……)

    今週はまあだいたいこんな感じだった。そしてきっとこれからもずっと父と2人きりの生活は、こうして味気なく続いていくのだろう。

 父の最愛であったΩ性を持つ母が交通事故で急死したのは、まだたったひと月ほど前。
母の死が分からないほど幼くもなく、だが若い父の手を煩わせないでいられぬほどには小学4年は自立には程遠い。
 家事は父も和哉もまるきりできないので、仕事の忙しい父に代わって、家事代行の女性が作り置きしてくれた食事と、宅配食、たまにはスマホでデリバリーを頼んだりしながら夕食はそれで済ませる。
    父はあれからもずっと、仕事のペースを落とさない。もっと言えば多分、家に早く帰るのが苦痛なのだろう。
 仕方がないと思う。和哉だってそうだ。あれから一人で家になどいたくない。
 家族が増えるだろうからとせっかく広めのマンションを買ったのに、ただ寒々しいだけの虚ろな入れ物に成り果てている。
    父とは学生結婚だった母は若々しく息子の目から見ても愛らしい人で、『和哉、お姉さんが来てる!』と授業参観で同級生に興奮気味に言われるほどだった。無邪気な笑顔が少女のように可愛らしい人で、その上明るくて社交的な誰からも好かれる性格だった。
家に客を招くことも好んでいたから和哉はよく家に友達を招いてゲームをして遊んでいた。その度、まめまめしい母は手作りのお菓子を作ってくれて和哉の友達に振舞ってくれた。
 その母が忽然とこの世から消えさった家の中は、母の営みの痕跡がそこここに残っているだけに、今はただ喪失感しか感じられない。和哉もそんな家の中一人で過ごしたくはなかった。

    
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