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牙を剥く狼

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 ぎゅっとスマホを握りしめたまま返事を戸惑う柚希の傍に和哉は長い脚でつかつかと近寄ると、普段しないような乱暴な仕草でそれを奪い取った。
 
「先輩……。もういいでしょ? 兄さんは先輩と番には……」
 
 和哉の剣幕に本能的に怯えた柚希は晶に一言も返せぬまま、ただ彼と話をしなければという強い意志だけでふらふらと立ちあがった。

(いかなきゃ……。ちゃんと、話を……)

 発情期であったとしても、柚希は学生時代はバスケ部で鍛え上げ、今でも自転車通勤に肉体労働と身体は鈍っていない。
 和哉が晶とスマホで話すことに集中した隙を突き、瞬発的な動きは得意とするところで、いくら本発情直前の状態であってもそれほど遠くない鉄の扉まで飛びつくことは可能だった。
 しかしそれは年齢が現役生に近く今でも身体を鍛えている和哉も同じこと。
   ドアノブに手をかけ開けようとした柚希の後ろから、重たい扉を開かぬように抑える力強い腕が伸びる。

「先輩、来てるの?」

 囲われた腕の間から見上げると、硝子玉のように冷たい瞳をして扉を睨みつけていた和哉が一瞬柚希を見おろし、ゾッとするほど昏い咎めるような視線をくれる。
 ゾクゾクっと全身に震えと暑さが同時に巻き起こり、柚希は扉に縋って震える脚が今にも崩れそうになるのをなんとか耐えた。

 すると柚希たちのいる扉の外と床に打ち捨てられたスマホの中との両方から、ドンドンと激しく扉が叩かれる音が漏れ、続いて晶の声が聞こえてくる。

『柚希! そこにいるのか?』

(晶がドアの前にいる!)

   柚希が見つめる2人を阻む冷たい扉に、背後から大きな影が落ちた。

「兄さんっ」
「あ.......っ」

 その直後に無防備だった白い項に感じた鮮烈な痛みに、堪らず上げた柚希のつんざくような悲鳴は、音を結ぶ前に硬く大きな掌の中に吸い込まれていった。

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感想 13

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