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金木犀

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 しかし発情期前に晶に触れられた時とは違い、和哉に触れられると心地よさが先行してすぐに身体中がふやけたようにとろんと蕩けて力が入らなくなってしまう。
 どうしてなのかは分からないが、これが本能のなせる業ならば和哉こそ柚希が番になるに相応しい相手だとでもいうのだろうか?
 和哉が柚希の手をぎゅっと強く握った。大きな瞳に『傍にいろ』とありありと書かれている。
 
(それでもいいのか? それでいいのか……。そんなこと許されるのか? 頭がまとまらない。だめ、だめだ。晶と……。晶と話をしないと)

 だが和哉にも迷いがあるようだ。柚希がゆっくりと立ち上がり繋がれた手をそっと外すしぐさを見せると、大人しく放してくれた。その間も甘い香りは背後から柚希をその場にとどめる様に包み込んでくる。
 眩暈を感じながら柚希はのろのろと立ち上がる。気だるい身体を引きず用に、ボディーバッグとその上に置かれたスマホのある小さなテーブルと椅子の置かれた場所に向かった。
椅子の背もたれで一度わが身を支える様に縋ると、のろのろと腰を下ろす。そして律動を繰り返すスマホを手に取った。

『柚希、俺だ。同じ階に上がってきてるんだ。廊下でてきてくれないか? 直接話をしよう』
『晶……』

 聞いたこともないような、恋人の切羽詰まった声色。
晶の言葉に心臓が再びどきどきと息苦しい程激しく高鳴り、こめかみ辺りがきーんと痛くなるほどぎりぎりと歯を食いしばってその興奮にたえた。

(廊下に出たら、晶に会える……。直接会って……それでどうする? どうなる?)

   揺らぐ心に追い打ちをかけるように、晶が今はまで聞いた事のないような情熱的で、なおかつ憐れなほど切羽詰った声で囁いてきた。

『柚希、愛してる。同情なんかじゃない。昔からずっとお前だけを愛してた。誰にも渡したくない。俺と番になってくれ』

   胸がつまり、柚希が応えることができずにいると、『柚希、お願いだ』と多感な時期を共に過ごした仲間で憎からず思う男にダメ押しの懇願をされた。柚希は初めてこれ程までに熱い晶の本音に触れて、口に手を当て嗚咽を漏らしそうになった。
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