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金木犀

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  再びテーブルの上のスマホが震え、兄弟は同時に音の鳴るほうをみた。
 スマホの律動に反応し頭がやや冴えた柚希は多分晶からだろうと確信があって、のろのろと身体を起き上がろうとする。
 しかしそれを肩に手を置かれて阻まれ、仰向けのまま和哉を咎めるように見上げたら、肩を掴む手に力を込められ、強い眼差しで身動きを制される。しかし気力を振り絞って柚希はその腕に手をかけた。

「……電話、でる」
「……」
「出させて。晶と話す。……後でお前ともちゃんと話をしよう。なぁ? 和哉」

 先ほどまで蕩けた表情を腕の中で見せていた柚希だが、頬こそ上気させたままだったが、ぎりぎりと爪先が手のひらに食い込むほど指を握りこんで何とか意識を保ち、努めてしっかりとした口調に戻ろうと努める。

(このまま発情期に入ったら、全部中途半端のめちゃくちゃのまま、取り返しがつかないことになる……)

 和哉は外側は柔和だが、内側は意外と頑固なところがある。言い出したら聞かない性分だ。そんな時柚希は兄らしく優しく諭して弟を動かすのだ。

「かず、俺はここにいるだろ? お前の傍に。電話するだけだ。わかるだろ?」
「……」

 先ほどは『兄と思ったことはない』などと嘯いた和哉だが、やはり年長の彼を長いことたててきた習慣がすぐに消え去ったわけではない。
 二人きりに慣れたこの場所でことを急ぎ過ぎたきらいはあり、ここは一旦は大人しく引こうと、身体を起こし兄を押さえつけていたその腕でもって手を繋いで兄を引き起こした。

「……そうだよね。兄さんはどうせ僕の傍にいるし。晶先輩がどうこうできるわけじゃない」

自分にそう言い聞かせているように和哉が小さくつぶやいている。
納得はしかねているようだが尊重する動きを見せた弟に、少しだけほっとしたが、あまり時間はかけていられない。身体がどんどん熱く火照り、運動したわけでもないのに吐息が熱く乱れてくる。 柚希は一見冷静さを装ったが、この状況でそれがそう長く持つはずもない。

(抑制剤の効果が薄れてるのは本当だ。昼の分の薬、こっちについてから飲もうと思って飲みそびれてるから、俺にも和哉の香りが分かるし、和哉が本当にαだったら、このままここに二人きりでいたら押し切られて確実に番にされる。そんななし崩しに、大事な和哉の番を俺なんかがなっていいのか? どうしたらいい?)

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