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金木犀

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「何を? カズなにいってる? わかんないよ」
「分かんない? 僕はね。ずっと子供の頃から兄さんとだけキスしたかったんだ。ワンちゃんごっこなんて、……嘘だよ。兄さんに触れられるならなりふり構っていられなかった」

 ついに長い間秘めた思いを白状した和哉に、柚希は嬉しいのか哀しいのか分からない言い表すことがとてもできないような情動に苛まれて、唇を戦慄かせ弟の名前をただ呼びつけた。

「かず、かずや!」
「怖い顔しないで? さっきみたいなとろとろの可愛い顔して、俺にだけ笑ってよ」
「どうして……」
「どうしてって、分かってるでしょ? 僕はワンちゃんじゃないんだ。ずっと昔から、兄さんを狙ってる、狼だったんだよ」
「かず、や……、だめっ」 

 くんくんっと仔犬と呼ぶには大きくなり過ぎた身体で兄のシャツの襟元をどんどん寛げていくと、白い胸元をまさぐるように鼻先を近づけ唇を寄せる。そしてシャツの上から官能の高まりに立ちあがった小さな突起をじゅっと吸った。

「ひうっ!」
「駄目じゃないよ。俺たち血がつながってるわけじゃない。もとは他人。そもそもずっと僕は兄さんのこと『兄さん』なんて思ってないよ?」
「そんな……酷い!」
「ひどいのはどっち? ずっと美味しそうな餌を目の前にちらつかされてさ。もう10年もお預け食らわされてきたんだよ? でも、もうじき薬がきれそうだね? ああ。いい匂い……。お願い? 食べさせて」

 とくとくと早く波打つ白い胸、その心臓の上に口づけて、和哉は兄が自分のことをどうとも思っていないわけではないと知れて嬉しくなる。
 シャツを開き、胸の桜色の飾りに直接息を吹きかけると、ふるっと鳥肌を立てそこはさらにぷっくりと立ちあがった。
 押さえつけているわけではないのに逃げ出さない兄に、今でも自分に対して一番に蕩けるように甘いというのを見越して、子供の頃のように要求がエスカレートしていく。首筋に顔を埋め、舐めて吸って赤く染め上げる。

「ねえ? ちゃんと気持ちいいんだ? 先輩だと怖くて駄目なのに、僕ならいいんだ? 答え聞かなくてもわかっちゃうよね? 兄さんが好きなのは……」
「……和哉、違う」
「違わないよ。兄さんはさ、ずっと昔から僕のΩなんだよ?」
「え……」
「僕がずっと、小さなころから舐めて齧って、兄さんの綺麗な身体に、消えない僕のマークつけてきたでしょ? 僕の獲物って証。あの頃はまだ小さかったし、お互い未成熟だった。番になれる資格がなかったけど。今なら僕ら、なれるんだよ? ねえ。なろうよ。 なって、お願い? 僕の番に」
「お前、ずっと、βだって、そういってただろ?」

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